核酸医薬品開発の現状 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 臨床研究 治験基盤事業部規制科学 臨床研究支援室 井上貴雄

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1 核酸医薬と DDS 核酸医薬品開発の現状 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 臨床研究 治験基盤事業部規制科学 臨床研究支援室 * 井上貴雄 ligonucleotide therapeutics: past, present and future ver the past decade, oligonucleotide-based therapeutics such as antisense oligonucleotides, small interfering RNAs (sirnas), decoy and aptamer have been developed extensively. For DD S example, mipomersen (Kynamro; Isis Pharmaceuticals), which is a second-generation antisense oligonucleotide administered by subcutaneous injection, has recently been approved by the FDA for the treatment of homozygous familial hypercholesterolemia. In addition, microrna (mirna)- related oligonucleotide therapeutics, such as mirna-targeting antisense oligonucleotides and mirna mimics, and CpG-motif oligodeoxynucleotides (CpG DN) have also been developed recently. The increase in research of oligonucleotide therapeutics was largely a result of improvements in the methods used for DNA sequencing, synthesizing oligonucleotides and chemically-modified nucleic acids. The most notable discovery was the addition of a phosphorothioate backbone to the oligonucleotides (S-oligo), leading to a significant increase in their stability. ther important milestone was development of a series of sugar-modified nucleic acids, including 2 --methyl, 2 --methoxyethyl, 2 -flouro and bridged nucleic acids, that remarkably increase the efficacy, stability and patentability of the oligonucleotide therapeutics. In this review, I would like to overview fundamental characteristics of oligonucleotide therapeutics, such as classification, sizes, lengths, modifications, forms, mechanism of action, kinetics and drug delivery system, and introduce global developmental trends of antisense oligonucleotides, sirnas, mirna-related oligonucleotide therapeutics, decoy, aptamer and CpG DN. アンチセンス sirna アプタマーに代表される核酸医薬品は 抗体医薬品に続く次世代医薬品として注目を集めている 現在 製薬業界では創薬シーズの枯渇が問題となっているが 核酸医薬品は従来の医薬品では標的にできなかった新規分子をターゲットにできる点において魅力的である また 薬効本体がオリゴ核酸で構成されるという共通の特徴を有すること 有効性の高いシーズ ( 配列 ) のスクリーニングが他の医薬品と比較して容易であることなどから 1つのプラットフォームが完成すれば短期間のうちに新薬が誕生すると考えられている 本稿では 新たな局面を迎えている核酸医薬品の基本的性質と開発動向について概説する Takao Inoue * Keywords: oligonucleotide therapeutics, antisense, sirna, aptamer, decoy * 1. はじめに アンチセンス sirna(small interfering RNA) アプタマーに代表される核酸医薬品は 抗体医薬品 に続く次世代医薬品として注目を集めている 1) 現 ffice of Regulatory Science and Clinical Research Support, Department of Clinical Research and Trials, Japan Agency for Medical Research and Development(AMED) 在 製薬業界では創薬シーズの枯渇が大きな問題となっているが 核酸医薬品は従来の低分子医薬品や抗体医薬品では標的にできなかった新規分子 (RNA DNA 等 ) をターゲットにできる点において魅力的である これまで核酸医薬品は生体内における易分解性等の問題が指摘されていたが 修飾核酸技術や DDS 技術が著しく進展したことから 安定で有効性の高い候補品が次々と開発されている 核 10 Drug Delivery System 31 1, 2016

2 酸医薬品は抗体医薬品と同様に高い特異性と有効性が期待される一方で 低分子医薬品と同じく化学合成により製造することができる また 薬効本体がオリゴ核酸で構成されるという共通の特徴を有すること 有効性の高いオリゴ核酸 ( 配列 ) のスクリーニングが低分子医薬品と比較して容易であることなどから 1つのプラットフォームが完成すれば短期間のうちに新薬が誕生すると考えられている 本特集は 核酸医薬と DDS というテーマのもと 核酸医薬 DDS 研究のエキスパートの先生方が執筆されている 本稿では DDS の最新の状況については先生方にお願いすることとし 薬効本体である オリゴ核酸 に主に焦点をあて 核酸医薬品の基本的性質と開発動向について概説したい 2. 核酸医薬品の分類核酸医薬品とは一般に 核酸あるいは修飾型核酸が直鎖状に結合したオリゴ核酸を薬効本体とし タンパク質発現を介さず直接生体に作用するもので 化学合成により製造される医薬品 を指す 遺伝子治療薬も核酸で構成される医薬品であるが 作用発現にタンパク質への翻訳を介する点 生物学的 に製造される点において核酸医薬品とは異なる 近年 in vitro で酵素的に合成した mrna を DDS を用いて標的細胞に導入し 遺伝子発現を介して治療を試みる技術が開発されている この技術は核酸医薬品と遺伝子治療薬の両方の要素を兼ね備えており 規制の観点からも今後議論が必要である 核酸医薬品は構造や標的 作用機序の違いからさまざまな種類が存在するが 細胞の内側で機能するか 外側で機能するか により 大きく2つに分類することができる (Table1 Fig.1 Fig.2) 細胞内で作用する核酸医薬品としては RNA を標的とするアンチセンスや sirna があげられ また タンパク質 ( 転写因子等 ) と結合して転写段階を抑制するデコイがある (Fig.1) 一方 細胞外で作用する核酸医薬品としては 抗体医薬品と同様に細胞外タンパク質と結合して機能を阻害するアプタマーが広く知られている (Fig.2) さらに Toll 様受容体 9 (TLR9) に作用して自然免疫を活性化させる医薬品として CpG オリゴ (CpG oligodeoxynucleotides) が開発されている (Fig.2) CpG オリゴはエンドサイトーシスによって細胞に取り込まれた後 エンドソーム内で TLR9に作用するが 膜との配向性を考えると細胞質と膜を挟んで反対側 ( つまり細胞の 外 Table1 核酸医薬品の分類 アンチセンス sirna mirna mimic デコイアプタマー CpG オリゴ 構造 1 本鎖 DNA/RNA 2 本鎖 RNA 塩基長 標的 作用部位 作用機序 開発段階 主な開発企業 mrna Pre-mRNA mirna 細胞内 mrna 分解スプライシング阻害 mirna 阻害 承認 2 品目 Phase 3 Isis, Santaris, Prosensa, Sarepta, Regulus, MiRagen mrna 細胞内 ( 細胞質 ) 2 本鎖 RNA, ヘアピン型 1 本鎖 RNA > 4 9 mrna 細胞内 ( 細胞質 ) 2 本鎖 DNA 1 本鎖 DNA/RNA 1 本鎖 DNA 2 0 程度 程度 タンパク質タンパク質 ( 転写因子 )( 細胞外タンパク質 ) 細胞内 ( 核内 ) 細胞外 タンパク質 (TLR 9) 細胞 外 ( エンドソーム内 ) mrna 分解 mirna の補充転写阻害機能阻害自然免疫の活性化 Phase 3 Phase 1 Phase 3 Alnylam, Quark, Arrowhead Mirna, MiRagen Anges-MG, Adynxx 承認 1 品目 Phase 2 Pfizer Regado, NXXN Phase 3 Pfizer, InDex Dynavax Drug Delivery System 31 1,

3 デコイ (2 本鎖 DNA) DNA Promoter 転写因子 Gene 核 Non-coding アンチセンス (1 本鎖 DNA/RNA) 転写阻害 mirna アンチセンス (1 本鎖 DNA/RNA) 転写因子 mirna 機能阻害 mirna mimic (2 本鎖 RNA) mrna mirna 機能補充 sirna (2 本鎖 RNA) RISC 複合体 タンパク質 翻訳阻害 細胞膜を通過し 細胞内で配列特異的な結合により作用 Fig.1 細胞の内側で機能する核酸医薬品 アプタマー (1 本鎖 DNA/RNA) シグナル伝達阻害 PEG タンパク質 mrna 細胞外タンパク質の阻害 核 CpG オリゴ CpG モチーフを含む 1 本鎖 NA エンドソーム promoter 転写因子 Gene エンドソーム内で機能膜を通過する必要はない 自然免疫の活性化 TLR9 抗体医薬に類似 オリゴ核酸の立体構造により作用 Fig.2 細胞の外側で機能する核酸医薬品 12 Drug Delivery System 31 1, 2016

4 側 ) で機能する 細胞膜を通過する必要がないという点ではアプタマーと同様であり 細胞 外 で作用すると捉えることができる 標的 の観点で分類すると アンチセンス sirna は核酸 (RNA) が標的であり アプタマー デコイ CpG オリゴはタンパク質が標的である (Table1) 前者については 標的となる RNA も核酸医薬品の種類によって異なっており エクソンスキッピング療法に用いられるスプラシング制御型アンチセンスの標的は pre mrna( 後述 ) sirna の標的は mrna である 近年 DNA RNA タンパク質 のセントラルドクマに乗らない非コード RNA の存在が明らかになっており 特にマイクロ RNA(miRNA) の機能が注目されているが mirna の機能を阻害する核酸医薬品も開発されている (mirna 阻害型アンチセンス ) 以上に述べた作用部位 標的 構造等の観点から核酸医薬品を分類し 一覧表として取りまとめた (Table1) 簡略化のため 各項目には例外が含まれる場合があるのでご留意願いたい 3. 核酸医薬品の特徴 3.1 核酸医薬品の大きさ核酸医薬品の基本骨格であるヌクレオチドの分子量は 程度であり 近年開発が進む修飾型核酸でもその値は大きくは変わらない したがって 塩基長の核酸医薬品を考えた場合 分子量は3,000 10,000 程度となる すでに上市されたアンチセンス医薬品である Vitravene ( 一般名 :Fomivirsen 21 塩基長 C 204 H 243 N 63 Na P 20 S 20 ) および Kynamro ( 一般名 :Mipomersen 20 塩基長 C 230 H 305 N 67 Na P 19 S 19 ) は 分子量がそれぞれ7,122 7,595である sirnaは一般に 20 数塩基の長さであるが 二本鎖であることから分子量は13,000 程度となる アプタマー医薬品は三次元的にタンパク質を認識するという特徴から塩基鎖が長い傾向にあり また 血中滞留性を向上させるために PEG 化されるケースも多い 日本で承認されている RNA アプタ マー Macugen ( 一般名 :Pegaptanib 28 塩基長 C 294 H 342 F 13 N 107 Na P 28 [C 2 H 4 ] 2n n 900) も PEG 化されており 分子量は50,000 程度である 以上のように 核酸医薬品はいずれの種類も数千を超える分子量を持っており 同じ化学合成によって製造される低分子医薬品 ( 一般に分子量 1,000 未満 ) と比べ はるかに大きい医薬品といえる 3.2 核酸医薬品の体内動態核酸医薬品は高分子であること また 負電荷を持つホスホジエステル構造が連続したポリアニオン構造を有するため 疎水性の細胞膜を透過しにくいという特徴がある 上述の核酸医薬品の分類の中で 細胞の内側で機能するアンチセンス sirna デコイに関しては オリゴ核酸が細胞膜を通過して細胞内に到達しなければならない ( 後述する Gapmer 型アンチセンスやスプラシング制御型アンチセンスは核内で機能するため さらに核膜を通過する必要がある ) オリゴ核酸の細胞内への移行に関しては分子機構がわかっていないが エンドサイトーシスによって取り込まれたオリゴ核酸がエンドソーム内に移行した後 エンドソーム膜を通過して細胞質に入ると考えられている エンドソームは 初期エンドソーム 後期エンドソーム リソソーム と成熟していくため エンドソーム膜を通過できなかったオリゴ核酸はリソソーム内で分解される このため 核酸医薬品が有効性を発揮するためには エンドソームの段階で細胞質に移行する必要がある 上述のように 核酸医薬品は分子量数千以上のポリアニオンであることから エンドソーム膜を通過できるオリゴ核酸の割合は低いと考えられている この問題を克服するため オリゴ核酸を構成するヌクレオチドの分子内に改変を加えたり オリゴ核酸の末端に修飾を施したりするなど 疎水性を高める改良が行われている また 他項に詳しく述べられているように リポソームや高分子複合体を用いてオリゴ核酸を細胞内に到達させる DDS 技術の開発も精力的に進められている 二本鎖の sirna は一本鎖のアンチセンスに比べて分子量 負電荷とも大きくなることから 膜透過性はさらに低下する この一本鎖と二本鎖の違いは Drug Delivery System 31 1,

5 培養細胞にオリゴ核酸を添加する実験を行うとイメージしやすい すなわち リポフェクトアミン等の遺伝子導入試薬を使用せず オリゴ核酸をそのまま培地に添加した場合 一本鎖アンチセンス (S オリゴ : 後述 ) では数 100 nm まで濃度を上げると細胞内に取り込まれるが 二本鎖 sirna は高濃度にしても取り込まれない これはin vivo においても同様であり 一般には 一本鎖はキャリアがなくても取り込まれるが 二本鎖ではキャリアが必要 とされている 取り込み効率には 分子量 電荷 構造 物性といったオリゴ核酸側の要因のみならず 生体側のシステムにも大きく依存すると考えられる 例えば スカベンジャー受容体を多く発現する貪食細胞はポリアニオンを認識して オリゴ核酸を効率よく取り込む ( その後 分解される ) また デュシェンヌ型筋ジストロフィーの疾患においては 健常人の筋細胞よりオリゴ核酸が取り込まれやすいことがわかっている これは 筋細胞の破壊 再生が活発な病態の筋組織においては初期発生段階の筋繊維が多く存在しており この段階で効率よくオリゴ核酸が取り込まれるため と考えられている 2) 投与経路にも依存しており 硝子体内注射や肺への吸入など局所的に投与する場合にはキャリアを必要としない場合がある 全身性に投与されたアンチセンスや sirna は 各組織の毛細血管の内皮細胞シートを通過した後 組織を構成する細胞の細胞膜を通過して細胞内に到達する したがって 全身投与されたオリゴ核酸の組織分布は毛細血管の内皮細胞の構造にも大きく依存する 毛細血管は内皮細胞の構造により 連続型毛細血管 有窓型毛細血管 洞様毛細血管 に分類されるが オリゴ核酸は上述の性質から内皮細胞が隙間なく敷きつめられた連続型毛細血管を通過することができない 一方 内皮細胞が薄く 窓のような構造を持つとされる有窓型毛細血管や内皮細胞間に隙間のある洞様毛細血管では内皮細胞シートを通過することが可能となる 実際 このように 緩い 内皮細胞シートを持つ肝臓 腎臓 脾臓 骨髄 固形がんなどにオリゴ核酸は集積しやすい 核酸医薬品の体内分布に関しては優れた総説が発表されているので 詳細はそちらを参照していただきたい 3) 4. 修飾型核酸の開発従来 核酸医薬品は体内でヌクレアーゼにより速やかに分解される易分解性が課題となってきた背景から 分解の影響を受けにくい局所投与型の核酸医薬品が先行して開発されてきた 実際 2012 年までに承認された Vitravene ( アンチセンス ) および Macugen ( アプタマー ) はいずれも硝子体内へ局注する医薬品であった しかし 近年 修飾型核酸の開発が顕著に進展したことにより オリゴ核酸のヌクレアーゼ耐性が向上し 体内での安定性は大きく改善した また 化学修飾により標的配列との結合性が著しく向上し 細胞内への取り込み効率も従来より改善している さらに これら一連の流れにより より低濃度で有効性を得ることが可能となり 細胞毒性の問題も低減しつつある CpG 配列を持つオリゴ核酸は Toll 様受容体 9(TLR9) を活性化するが この作用は CpG のシトシンの5 位をメチル化することにより抑制されることが示されている このように オリゴ核酸によるパターン認識受容体を介した自然免疫活性化については 化学修飾により回避できると考えられている 以上のような利点から 現在開発されているほとんどの核酸医薬品は何かしらの化学修飾が施されている 核酸の化学修飾は リン酸部の修飾 糖部の修飾 塩基部の修飾に分類することができる リン酸部の NH 2 N N N NH N N NH 2 P S - Fig.3 ホスホロチオアート化 14 Drug Delivery System 31 1, 2016

6 修飾としては ( 酸素原子 ) を S( 硫黄原子 ) に置換したホスホロチオアート修飾 (S 化 ) がよく知られており ( Fig.3) アンチセンス医薬品を中心に S 化されている (S 化されたオリゴ核酸は S オリゴ と呼ばれる ) S 化は核酸と核酸をつなぐリン酸ジエステル結合部の修飾であることから ヌクレアーゼ耐性の獲得に大きく寄与し また 疎水性が増すことから細胞内への取り込みも改善する 一方 S 化するとリン原子上に不斉点が発生するため S オリゴは立体異性体が混在した化合物として合成される この点は品質管理の観点から重要であり 核酸医薬品に特有の考慮が必要となる 4) 現時点では リン原子の立体化学による異性体はいずれも有効成分であるという前提で開発が進められている また S オリゴは天然型と比較し 非特異的なタンパク質結合が増加することが知られている 糖部の修飾としては 2 ' 位の修飾と架橋型修飾があげられる (Fig.4) 2 ' 位の修飾は核酸医薬品開発の初期段階から試みられており 2 ' F 2 ' Methyl(2 ' Me) 2 ' Methoxyethyl(2 ' ME) などが知られている すでに上市された核酸医薬 品 ( Table2) を例にとると Vitravene は S 化のみで糖部は修飾されていないが Macugen ではピリミジン塩基を持つ核酸 ( シトシン ウラシル ) が 2' F 化されており プリン塩基を持つ核酸 ( アデニン グアニン ) は2' Me が施されている Kynamro については S 化に加えて オリゴ核酸の両端に2 ' ME が導入されている ( 後述 ) 架橋型修飾は 揺らぎのある糖部の立体配座を架橋により固定化する というコンセプトにより創製されたものである 通常 核酸は RNA 型 (N 型 ) と DNA 型 (S 型 ) の両方のコンフォメーションをとることができるが 糖部 2 ' 位と4 ' 位を化学的に架橋することにより 厳密に RNA 型 (N 型 ) に固定することができる これにより 相補鎖との結合力が顕著に向上すると共に ヌクレアーゼに対する立体障害によりヌクレアーゼ耐性も付与される 5) 架橋型核酸は日本が世界に先駆けて開発を進めており 1997 年に大阪大学薬学部の今西 小比賀らによって2 ',4 ' BNA 2 ',4 ' Bridged Nucleic Acid 別名 LNA(Locked Nucleic Acid) が開発されたのが最初の報告である 6) 架橋型核酸としては 他 P - F P - CH 3 P - CH 3 N N P 2 -F 2 --Methyl (2 -Me) 2 --Methoxyethyl (2 -ME) モルフォリノ核酸 P - LNA (2,4 -BNA) P N CH 3 P P BNA CC BNA NC ENA Fig.4 核酸の糖部を改変した修飾型核酸 Drug Delivery System 31 1,

7 Table2 上市された核酸医薬品 商品名一般名分類承認国承認年標的適応投与ルート Vitravene Fomivirsen アンチセンス Macugen Pegaptanib アプタマー 米 1998 EU 米 2004 EU 日 2008 サイトメガロウイル (CMV) 遺伝子 IE2 mrna Vascular endothelial growth factor(vegf) タンパク質 Kynamro Mipomersen アンチセンス米 ApoB1 0 0 mrna CMV 性網膜炎 (AIDS 患者 ) 滲出型加齢黄斑変性症 ホモ接合型家族性高コレステロール血症 硝子体内局注 硝子体内局注 皮下注 Table3 アンチセンス医薬品の分類 分類 標的 原理 作用機構 Gapmer 型 mrna RNase H mrna の分解 スプライシング制御型 pre-mrna 立体障害 pre-mrna とスプライソソームの結合阻害 mirna 阻害型 mirna 立体障害 mirna と mrna の結合阻害 に BNA CC BNA NC ENA(2 ',4 ' C Ethylene bridged Nucleic Acids) cet BNA などが開発されている 糖部修飾ではないが 糖部をモルフォリノ環に置換した核酸類縁体も核酸医薬品の原料として用いられている モルフォリノオリゴ核酸はヌクレアーゼで分解されず また毒性が低いという利点がある オリゴ核酸の塩基部は相補鎖との結合に特に重要であることから 相補鎖形成が前提である RNA を標的とする核酸医薬品において 塩基部が修飾された例は少ない 一方で 三次元的な構造によりタンパク質を認識するアプタマーでは 立体構造の多様性獲得あるいはタンパク質との親和性増強を狙って 塩基部が修飾されるケースがある アプタマーの配列選択に用いられる試験管内人工進化法 (SELEX 法 ) では PCR のステップが含まれることから アプタマー選別の際に用いられる核酸はポリメラーゼに認識される必要があり また 相補鎖を形成するカウンター核酸が必要である このことから アプタマー開発においては 修飾型核酸を認識する改変ポリメラーゼの開発が行われており また A U G C に続く第 5 第 6の核酸を生む人工塩基対の開発も試みられている 7) 5. 核酸医薬品の開発状況これまで承認までいたった核酸医薬品は アンチセンス2 品目 (Vitravene,Kynamro ) アプタマー 1 品目 (Macugen ) の3 品目である それぞれの承認国 承認年 標的 適応 投与ルートを Table2にまとめた 特筆すべきは 2013 年にアンチセンス医薬品 Kynamro が全身投与の核酸医薬品として初めて上市された点である Kynamro は ApoB 100 の mrna をターゲットとする家族性高コレステロール血症治療薬であり キャリアなしで皮下投与される 上述のように 全身投与したオリゴ核酸は肝臓や腎臓等に集積する性質があるが Kynamro は肝臓に発現する ApoB 100 mrna を分解することで有効性を発揮する 今後は 従来から開発されている局所投与型の核酸医薬品に加えて 静注 / 皮下注が可能な全身投与型の核酸医薬品が上市されてくると予想される 2015 年現在 臨床試験が行われている核酸医薬の候補品数は130 程度であり その多くが RNA を標的とする核酸医薬品 ( アンチセンス sirna) である アプタマーとデコイは現時点では10に満たない Phase 3の段階にある候補品は20 近くあり 近い将来 4 番目 5 番目の核酸医薬品が誕生するものと期待される 対象疾患としては がんをはじめとする難治性疾患や遺伝性疾患が先行しており ア 16 Drug Delivery System 31 1, 2016

8 ンメット メディカルニーズに対する核酸医薬品を実用化することにより 市場への導入が拡大していくと考えられる 以降 各々の核酸医薬品について概説する 5.1 アンチセンスアンチセンス医薬品は 標的 RNA と配列依存的に二重鎖を形成するオリゴ核酸を有効成分とし 標的 RNA の機能を制御することで有効性を発揮する 現在 臨床試験が行われているアンチセンスを作用機序で分類すると Gapmer 型 スプライシング制御型 mirna 阻害型 の 3つに大別できる ( Table3) Gapmer 型アンチセンス Gapmer 型アンチセンスの作用は 古くから知られていた mrna と結合したアンチセンスがリボソームのアクセスを阻害することによりタンパク質合成を抑制する というメカニズムとは異なるもので sirna のように RNA を分解することにより機能する (Table3) Fig.5に Gapmer 型アンチセンスの模式図を示した Gapmer 型アンチセンスはオリゴ核酸の両端には RNA との結合力が強い修飾型核 酸が導入されており 中央の Gap 部分には DNA が用いられる このアンチセンスが標的 mrna と結合すると DNA と RNA の相補鎖を認識して RNA 鎖を切断するヌクレアーゼ である RNase H がオリゴの中央部で DNA/RNA 二重鎖を認識し RNA 鎖を切断する RNase H は普遍的に発現する酵素で 主に核内に存在することから Gapmer 型アンチセンスは核内で機能していると考えられている 上述の Kynamro は代表的な Gapmer 型アンチセンスであり 結合力を高める修飾型核酸として糖部を修飾した2 ' ME が使用されている (Fig.4 5) Gapmer 型アンチセンスの開発を牽引しているのは Kynamro を開発した Isis 社であるが その他に Santaris 社が架橋型核酸 LNA(2 ',4 ' BNA) を用いた Gapmer 型アンチセンスを開発している スプライシング制御型アンチセンス Gapmer 型アンチセンスが RNA を切断するのに対し スプライシング制御型アンチセンスはスプライシングを変化させ mrna の配列を修正することで有効性を発揮する (Table3) 最も開発段階が進んでいるスプライシング制御型アンチセンスはデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する治療薬で RNase H:DNA/RNA 二本鎖を認識し RNA を切断するエンドヌクレアーゼ RNase H による mrna の切断 mrna と強固に結合 2 -ME DNA 2 -ME mrna オリゴ核酸の両端に mrna との結合力が強い 糖部を修飾した修飾型核酸 (2 -ME LNA ENA 等 ) を導入する オリゴ核酸の中央 Gap 部分は RNase H が基質として認識できるよう DNA 骨格にする ( すなわち 糖部の 2 位を修飾しない ) 一般に Gapmer 型アンチセンスはリン酸部が S 化されている Fig.5 Gapmer 型アンチセンスの構造 Drug Delivery System 31 1,

9 あり エクソンスキップの機序によって作用する (Fig.6) 8) デュシェンヌ型筋ジストロフィーの疾患では 79 個のエクソンで構成されるジストロフィン遺伝子がエクソン単位で欠失する変異が多く (60~ 70%) この結果 筋細胞の維持に必須であるジストロフィンタンパク質が生成しない Fig.6に示した例では エクソン50の欠失により エクソン49 と51が連結した mrna が生じ エクソン51 以降で読み枠がずれることにより 早期にストップコドンが生じる この結果生じた C 末側が欠失した変異ジストロフィンタンパク質 は不安定なため 分解される この状況において エクソン51の ESE 領域 (Exonic splicing enhancer: スプライシングを促進するシス配列 ) と相補的に結合するアンチセンスを導入すると スプライシングが変化し エクソ ン51が スキップ される これにより生じる エクソン49とエクソン52が連結した mrna は読み枠が合うことから C 末端まで翻訳されることとなり エクソン50 51にコードされるアミノ酸が欠失した少し短いジストロフィンタンパク質 が生成する 重要な点は ジストロフィンタンパク質は N 末側のモチーフと C 末側のモチーフが機能発現に必須であるが 中央部には繰り返しモチーフがあり 多少抜けても機能が保持される点である エクソンスキッピング法はこのジストロフィンタンパク質の性質を生かした治療法といえる 本手法で用いるアンチセンスのターゲットは pre mrna であり pre mrna とスプライシングに関与するタンパク質群との結合を阻害することに機能を発現する Fig.6 の作用機構を見てもわかるように エクソンスキップ法ではアンチセンス医薬品は RNA 鎖に結合すれ 健常人 スプライシング Pre-mRNA In-frame mrna 筋ジストロフィー患者 エクソン 50 の欠失変異 正常ジストロフィンタンパク質 Pre-mRNA スプライシング ut-of-frame mrna ut-of-frame C 末側が欠失した変異ジストロフィンタンパク質 不安定化により分解 筋ジストロフィー患者 + アンチセンス アンチセンス Pre-mRNA ESE (Exonic splicing enhacer) In-frame スプライシング In-frame mrna 機能を保持した 短鎖 ジストロフィンタンパク質 Fig.6 エクソンスキップの機序で作用するスプライシング制御型アンチセンス 18 Drug Delivery System 31 1, 2016

10 ばよく Gapmer 型のように RNA 鎖を切断する必要はない ( むしろ 切断してはいけない ) したがって アンチセンスの結合力を高めつつ RNase H が作用しないように修飾型核酸が配置される また RNase が作用しないモルフォリノオリゴも用いられる エクソンスキップ療法に用いるアンチセンスとして開発が進んでいるものは Prosensa 社が開発している Drisapersen ならびに Sarepta 社が開発している Eteplirsen がある いずれも Fig.6に示したエクソン51を標的とするもので 前者は2 ' Me 化アンチセンス 後者はモルフォリノオリゴが用いられている Drisapersen は大規模な国際共同治験 (Phase 3) で主要評価項目である6 分間歩行距離の有意な改善がみられなかったが 米国食品医薬局 (FDA) の助言により 迅速承認制度に基づく承認申請が行われている Eteplirsen についても同様に FDA で承認申請が行われている 国内においては国立精神 神経医療研究センターと日本新薬が共同で エクソン53を標的したモルフォリノアンチセンス ( N S 065 /NCNP 01) を開発している 医師主導治験として行われた早期探索的臨床試験が2015 年 3 月に終了し ジストロフィンタンパク質の発現が認められたこと 重篤な有害作用が発生しなかったこと等が示された これを受け 日本新薬が臨床試験を引き継ぎ 2018 年の国内上市を目指して 次の治験を準備している段階である ( 日本新薬ホームページ ) また 第一三共はエクソン45を標的としたアンチセンスの開発を発表しており 2015 年 12 月に行われた日本核酸医薬学会第 1 回年会において臨床試験 (Phase 1 /2) に入っていることが報告された 第一三共は独自に開発した架橋型核酸 ENA を含むオリゴ核酸を用いている なお エクソン 45 エクソン53のスキップは エクソン51に次いで対象患者数が多いとされているもので 対象患者が多いエクソンから順に国内外で開発が進められている スプライシング制御型アンチセンスの作用機序としては エクソンスキップの他に エクソンインクルージョン ならびに 潜在的スプライシング部位の抑制 がある エクソンインクルージョンはエクソ ンスキップとは逆に mrna から排除されてしまうエクソンをアンチセンスの作用により mrna に組み込む 手法である 9,10) 代表例としては 脊髄性筋萎縮症 (spinal muscular atrophy:sma) に対するアンチセンス医薬品 ISIS SMNRx があり Isis 社が Biogen 社と共同で開発を進めている (Phase 3) ISIS SMNRx の標的は脊髄に発現するSMN2 遺伝子の pre-mrna であるが アンチセンスは単独投与では血液脳関門を通過しにくいことから ISIS SMNRx は髄腔内に直接投与される 後者の例としては 日本人に多い福山型筋ジストロフィーに対する適応があり 11) 神戸大学医学系研究科と日本新薬で共同研究が行われている これらのスプライシング制御型アンチセンスの作用機構に関しては 文献 12) を参照していただきたい mirna 阻害型アンチセンス mirna 阻害型アンチセンスに関しては 5.3 mirna に関連する核酸医薬品 の項で記載する 5.2 sirna RNAi という現象は もともとアンチセンスを用いた研究が契機で発見された すなわち アンチセンスのネガコンとしてセンス鎖 RNA を線虫に注入したところ 予想外にもセンス鎖でも遺伝子機能が阻害された表現型が得られた という一文が 1995 年の Cell 誌に記載され 13) この原因を追究したところ センス鎖 RNA に微量に混入した二重鎖 RNA が mrna の分解を引き起こしている という事実が明らかになったのである 14) この線虫における RNAi の発見の後 RNAi が誘導されるためには二重鎖 RNA が20 塩基程度の短い二本鎖 RNA (sirna) に切断される必要があることが示され さらに 2001 年にはヒト細胞においても 合成した sirna を導入すれば RNAi が誘導されることが明らかにされた 15) sirna はアンチセンスに比べて低濃度で mrna を分解できることから 核酸医薬品のシーズとして大きな注目が集まったが DDS が予想以上に難しく また 自然免疫系を活性化される例が報告されたことなどから 16) 臨床応用への期待が下火になった経緯がある しかし 最近の技 Drug Delivery System 31 1,

11 術進展により 再び注目を集めている まず 自然免疫を活性化する副次的作用の問題については 二重鎖 RNA のセンサーである Toll 様受容体 3の研究が進んだこと 修飾型核酸の導入により活性化を低減できることが明らかになったことから リスクをあらかじめ回避できるようになった DDS に関しては 全身投与が可能な sirna として 末端にコレステロールを付加した sirna が報告されたが 17) 個体レベルの作用としては不十分であった その後 Tekmira 社がリポソームの脂質成分を徹底的にスクリーニングすることで SNALP(stable nucleic acid lipid particles) と呼ばれるリポソーム製剤を開発し 全身投与された sirna が肝臓において効率よく機能する技術が確立された 18) 現在では リポソームの改良がさらに進み 0.02~0.1 mg/kg (ED50) という低用量で発現抑制を実現している Alnylam 社はこの技術を用いて アミロイドーシスの原因となるトランスサイレチン (TTR) を抑制する sirna 医薬品 Patisiran(ALN TTR02) の開発を行っており 現在 Phase 3の段階にある TTR は主に肝臓で発現し 血中で機能するタンパク質であるが TTR 遺伝子に特定の変異が導入されると変異 TTR タンパク質からなるアミロイド ( 水に溶けない繊維状のタンパク質 ) を生じ 全身の臓器に沈着する 静脈内投与された Patisiran は肝臓で機能し 血中の変異 TTR を減少させる効果がある 3.2 核酸医薬品の体内動態 の項で 二本鎖 sirna を全身投与するためには基本的にリポソーム等のキャリアが必要 と述べたが 近年 糖鎖を sirna の末端に付加した GalNAc-conjugated sirna と呼ばれるキャリアを必要としない技術が新たに開発されている Alnylam 社が開発したこの技術は肝実質細胞の細胞表面に発現するアシアロ糖タンパク質受容体と GalNAc(N アセチルガラクトサミン ) の結合を利用したもので 全身投与 ( 皮下投与 ) により 肝臓に集積し 機能する 上述の TTR を標的とした sirna に GalNAc を付加した Revusiran(ALN TTRsc) は Phase 1 試験において0.5~0.2 mg/kg(ed50) で有効性を示しており 現在 Phase 3の段階にある Alnylam 社では肝臓が標的となる遺伝性疾患に対する sirna の開発 を強化しており 上述の TTR アミドーシスに加え 血友病 ( 標的 :Antithrombin) 高コレステロール血症 ( 標的 :PCSK9) 急性間欠性ポルフィリン症 ( 標的 :ALAS1) βサラセミア / 鉄過剰症 ( 標的 : TMPRSS6) などのパイプラインが進行している その他 sirna 医薬品の臨床試験が行われている疾患領域としては がん 眼 感染症 ( 肝炎ウイルス エボラウイルス等 ) が多い 国内企業の話題としては 日東電工 /Quark 社が開発する ND L02 s0201( 標的 :HSP47 適応: 肝硬変 肝線維症 ) があり 海外での臨床試験で Phase 1の段階である ND L02 s0201では 肝臓における活性化星細胞に取り込ませることを目的として ビタミン A を結合したリポソーム製剤が用いられている また 国立がん研究センターでは 乳がんの治療抵抗性に関わる Ribophorin Ⅱ(RPN2) に対する sirna を開発し 2015 年 7 月に医師主導治験を開始している DDS としては界面活性剤ペプチドである A6 K を用いており RPN2 sirna/ A6 K 複合体として腫瘍周辺部に局所投与される sirna 医薬品の開発状況に関しては文献 19 20) も合わせて参照されたい 5.3 mirna に関連する核酸医薬品非コード RNA の1つである mirna は20 数塩基の短い一本鎖 RNA で 主に mrna の3 非翻訳領域に結合することで mrna の機能を阻害する mirna も1993 年に線虫を用いた研究から発見され 21,22) 2001 年になってヒトも含めた多くの生物種で mirna が存在することが示された 23) mirna の生成機構 / 作用機構は sirna のパスウェイと類似している すなわち ゲノム DNA から転写されてヘアピン構造をとった pri mirna は 二段階の切断を受けて sirna と同じ二本鎖 RNA となる その後 sirna と同様に RISC 複合体に取り込まれた後 相補鎖であるパッセンジャー鎖が除かれて 一本鎖ガイド鎖 (=mirna) が RISC 複合体に残る この複合体がガイド鎖に相補的な mrna を認識し mrna の翻訳抑制あるいは分解を引き起こす 20 Drug Delivery System 31 1, 2016

12 5.3.1 mirna mimic mirna に関連する核酸医薬品は mirna の発現異常によって引き起こされる病態を mirna の量を正常化することによって治療する というコンセプトで創製される まず mirna の発現が減少した病態については mirna を補充する試みが行われる mirna とは上述の生成経路の最後に生じる一本鎖 RNA を指すが mirna が機能を獲得するためには相補結合した二本鎖の状態で RISC 複合体に取り込まれた後 一本鎖 RNA(=miRNA) になる必要がある したがって mirna を補充する療法では二本鎖 RNA の状態で細胞内に導入することとなる このように mirna を補充する目的で使われる二本鎖 RNA は mirna mimic とも呼ばれ 二本鎖 RNA であるため体内への導入には基本的にキャリアが必要である 一般にがんにおいては mirna の発現が減少していることから mirna mimic はがんへの適応が特に期待されている 現在 Mirna 社が開発する mir 34に対する mirna mimic(mrx34) が肝がん 血液悪性腫瘍に対する適応で Phase 1の段階にある mirna 阻害型アンチセンス mirna の発現が亢進した病態では mirna の量を減少させる方法論が必要である mirna は短い RNA であることから ほぼ同じ長さの sirna によって mirna を認識し 分解することは事実上不可能である そこで mirna の機能を抑制する手法として mirna と相補的に結合するアンチセンスが用いられる mirna 阻害型アンチセンスは mirna と標的 mrna の結合をブロックするものであり アンチセンス医薬品の分類としては 立体障害 となる (Table2) mirna 阻害型アンチセンスの開発を行っているのは アンチセンス医薬品開発の代表格 Isis 社と sirna 医薬品開発の代表格 Alnylam 社が合同で設立した Regulus 社 ならびに Santaris 社 Miragen 社がある 現在 mirna 阻害型アンチセンスで臨床試験段階にあるのは Santaris 社が開発している Miravirsen である Miravirsen は架橋型核酸 LNA を含むアンチセンスであり 皮下に投与された後 肝臓で機能する Miravirsen の標的である mir 122は肝臓特異的に発現する mirna で mir 122が C 型肝炎ウイルスの RNA に結合することがウイルス増殖に必須である 皮下投与された Miravirsen は肝細胞内で mir 122をトラップするため C 型肝炎ウイルスの増殖が抑制される Miravirsen は Phase 2で良好な結果が得られている mirna に関連する核酸医薬品に関しては文献 24 ~26) も合わせて参照していただきたい 5.4 デコイデコイ核酸医薬品は 転写因子が結合する DNA 領域の塩基配列を人工的に合成した二本鎖の DNA である デコイを細胞内に導入すると 標的の転写因子に おとり (=デコイ) として結合し この結果 本来のプロモーター DNA 領域と転写因子の結合が阻害される したがって デコイはアプタマーと同様にタンパク質を標的とする核酸医薬品である 一般に転写因子はある特定の現象に関わる遺伝子群を同時に発現制御することから 転写因子を標的した医薬品は効果的に有効性を発揮する可能性を秘めている デコイ核酸医薬品の開発はアンジェス MG において進められており 炎症に関連する遺伝子群を制御する転写因子 NFκB(Nuclear Factor-kappa B) を標的としたデコイの臨床研究が進められている NFκB が関与する病態は アトピー性皮膚炎 炎症性腸疾患 血管再狭窄 関節症など多岐にわたっており NFκB デコイの応用範囲は広いと期待される アトピー性皮膚炎への適応として開発されている AMG0101が現在 Phase 3の段階にある 本開発については 文献 27 28) に詳しいので そちらを参照していただきたい デコイ核酸医薬品としては もう1つ Adynxx 社が開発する AYX1がある AYX1は early growth response protein 1(EGR1) と呼ばれる転写因子と結合し その機能を阻害する EGR1は神経可塑性に関与することが知られており EGR1の阻害により痛みの伝達が遮断される 現在 手術時に単回投与し 手術後の痛みを低減するという目的で臨床試験が行われている 現在 Phase 2が終了している Drug Delivery System 31 1,

13 5.5 アプタマーアプタマーは一本鎖 RNA または DNA で構成され その立体構造により標的タンパク質と結合して機能を阻害する核酸医薬品である SELEX 法によって取得される アプタマーの利点としては 標的タンパク質への結合性 / 特異性が高い 免疫原性が低い 化学合成可能で製造 保存が容易であることなどがあげられる アプタマーは細胞外でタンパク質と結合して機能を発揮するため 原理的に抗体医薬品と競合する 先に述べたアプタマーの優位性はあるものの 抗体医薬品が大きく先行しているのが現状である 現在 アプタマーの臨床研究を行っているのは NXXN 社であり Phase 2の段階の候補品が複数ある Regado 社が開発していた RNA アプタマー REG1( 血液凝固因子 Ⅸa 阻害薬 Pegnivacogin+ 中和薬 Anivamersen) が有望と考えられていたが Phase 3 試験で重度アレルギー反応が10 例報告され 早期中止が発表されている (2015 年 11 月 : 文献 31) 5.6 CpG オリゴ CpG オリゴはここまで述べてきた核酸医薬品において 副作用 と懸念される点を 主作用とする医薬品である すなわち オリゴ核酸が Toll 様受容体に代表されるパターン認識受容体を介して引き起こす自然免疫系の活性化を 免疫賦活化作用という有効性として捉えた医薬品である CpG オリゴはワクチンを投与する際の核酸アジュバントとして利用されるケースが多く 一本鎖 DNA を認識する Toll 様受容体 9を介して作用する Dynavax 社が 開発する HEPLISAV B( 適応 :B 型肝炎 ) InDex 社が開発する Kappaproct( 適応 : 潰瘍性大腸炎 ) が Phase 3の段階にある また 日本においては大阪大学微生物病研究所において開発されている BK SE36 /CpG DN(K3)( 適応 : マラリア感染 ) が Phase 1を終了している 文献 32 ~34) も参照されたい 6. 最後に今後 核酸医薬品の分野で特に期待されるのがデリバリー技術の進展である 標的組織の細胞内に到達させるという使命はもちろんのこと オリゴ核酸が潜在的に有する肝毒性等の有害作用を回避するための手段としても重要である 核酸医薬品は高い合成コストも課題となっており 液層合成法の開発など合成技術の改良が求められているが この問題もデリバリー技術で低用量化が実現できれば 改善が期待できる 一方で 現在の技術でも核酸医薬品は一部の組織 疾患において上市可能なレベルに達しており まずは 治療が可能な疾患を対象にして成功例を出していくことが重要である 核酸医薬品の規制面については 現状ではケーススタディが少なく 世界的に整備されていない状況であるが 国内においても核酸医薬品のレギュラトリーサイエンスを議論する動きが生まれている 35) 今後 医薬品開発とレギュラトリーサイエンス研究の両輪で前進し 日本発の核酸医薬品が早期に誕生することを期待したい 文献 1) 世界の核酸医薬品開発の現状と将来展望. シード プランニング社 (2014) 2)Aoki Y. et al. :Highly efficient in vivo delivery of PM into regenerating myotubes and rescue in laminin- α2 chain-null congenital muscular dystrophy mice.hum Mol Genet.,22 (24), (2013) 3) 西川元也 : 核酸医薬開発の鍵を握る薬物送達システム (DDS). 薬品医療機器レギュラトリーサイエンス,43(9), (2012) 4) 和田猛 : ~ 核酸医薬品に求められるもの ~. 医薬ジャーナル,48(1),61-63(2012) 5) 小比賀聡 : 糖部架橋型核酸の医薬への応用. 医薬ジャーナル,48(1),65-69(2012) 6)bika S. et al. :Synthesis of 2'-,4'-C-methyleneuridine and -cytidine. Novel bicyclic nucleosides having a fixed C3'-endo sugar puckering.tetrahedron Lett.,38, (1997) 7) 平尾一郎 : 新規機能性核酸の創製へのチャレンジ. 医学の歩み,238(5), (2011) 8) 李知子ほか :Duchenne 型筋ジストロフィーに対するエクソンスキッピング誘導治療. 医学のあゆみ,238(5), (2011) 9)Sivanesan S. et al. :Antisense oligonucleotide mediated therapy of spinal muscular atrophy.transl Neurosci.,4 (1),1-7(2013) 10)sman EY. et al. :Bifunctional RNAs targeting the intronic splicing silencer N1 increase SMN levels and reduce disease severity in an animal model of spinal muscular atrophy.mol Ther.,20(1), (2012) 22 Drug Delivery System 31 1, 2016

14 11)Taniguchi-Ikeda M1. et al. :Pathogenic exon-trapping by SVA retrotransposon and rescue in Fukuyama muscular dystrophy.nature,478(7367), (2011) 12) 齊藤崇ほか : 選択的スプライシングを調節するアンチセンス医薬品の開発について. 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス,45(1),23-32(2014) 13)Guo S. et al. : par-1, a gene required for establishing polarity in C. elegans embryos, encodes a putative Ser/ Thr kinase that is asymmetrically distributed.cell,81 (4), (1995) 14)Fire A. et al. :Potent and specific genetic interference by double-stranded RNA in Caenorhabditis elegans. Nature,391(6669), (1998) 15)Elbashir SM. et al. :Duplexes of 21-nucleotide RNAs mediate RNA interference in cultured mammalian cells. Nature,411(6836), (2001) 16)Kleinman ME. et al. :Sequence- and target-independent angiogenesis suppression by sirna via TLR3. Nature,452(7187), (2008) 17)Soutschek J. et al. :Therapeutic silencing of an endogenous gene by systemic administration of modified sirnas. Nature,432(7014), (2004) 18)Zimmermann TS. et al. :RNAi-mediated gene silencing in non-human primates.nature,441(7089), (2006) 19) 福永淳一ほか :RNAi 創薬と国内外の開発状況. バイオインダストリー,29(7),10-14(2012) 20) 宮岸真 : 核酸医薬種類と DDS.Pharm Tech Japan,29 (6), (2013) 21)Lee RC. et al. :The C. elegans heterochronic gene lin-4 encodes small RNAs with antisense complementarity to lin-14.cell,75(5), (1993) 22)Wightman B. et al. :Posttranscriptional regulation of the heterochronic gene lin-14 by lin-4 mediates temporal pattern formation in C. elegans.cell, 75(5), (1993) 23)Lagos-Quintana M. et al. :Identification of novel genes coding for small expressed RNAs.Science,294(5543), (2001) 24) 鹿島理沙ほか :mirna 研究最前線. ファルマシア,49 (6), (2013) 25) 山田陽史ほか :mirna 医薬開発の現状と展望. 遺伝医学 MK,23, (2012) 26) 尾﨑充彦ほか :micro 医薬によるがん治療への展開. 医学のあゆみ,238(5), (2011) 27) 三宅隆ほか : デコイ核酸医薬を用いる血管疾患治療薬の開発. 医薬ジャーナル,48(1), (2012) 28) 玉井克人 :NFκB デコイ DNA 軟膏によるアトピー性皮膚炎の治療. 医薬ジャーナル,48(1), (2012) 29) 石黒亮 : アプタマー創薬と国内外の開発状況. バイオインダストリー,29(7),4-9(2012) 30) 藤原将寿 : アプタマー医薬. 医学のあゆみ,238(5), (2011) 31)Lincoff AM. et al. :Effect of the REG1 anticoagulation system versus bivalirudin on outcomes after percutaneous coronary intervention (REGULATE-PCI): a randomised clinical trial.lancet.4,(2015) 3 2)Hancock RE. et al. :Modulating immunity as a therapy for bacterial infections.nat. Rev. Microbiol.,10(4), (2012) 33)Galluzzi L. et al. :Experimental Toll-like receptor agonists for cancer therapy.ncoimmunology, 1(5), (2012) 34)Bode C. et al. :CpG DNA as a vaccine adjuvant.expert. Rev.Vaccines.,10(4), (2011) 35)HS 財団規制動向調査ワーキンググループ :HS 財団平成 25 年度規制動向調査報告書 核酸医薬品の開発と規制の動向 (2014 年 3 月 ) Drug Delivery System 31 1,