拠点大学 : 東京海洋大学新世紀における水産食資源動物の生産技術及び有効利用に関する研究. Productivity techniques and effective utilization of. aquatic animal resources into the new century

Size: px
Start display at page:

Download "拠点大学 : 東京海洋大学新世紀における水産食資源動物の生産技術及び有効利用に関する研究. Productivity techniques and effective utilization of. aquatic animal resources into the new century"

Transcription

1 日本学術振興会拠点大学交流事業タイの交流 ( 水産学 ) 拠点大学 : 東京海洋大学新世紀における水産食資源動物の生産技術及び有効利用に関する研究 Productivity techniques and effective utilization of aquatic animal resources into the new century 事後評価資料 2010 年 8 月 The JSPS Core Unicersity Program Tokyo University of Marine Science and Technology Kasetsart University 1

2 評価資料の要約 21 世紀の水産業は 国連海洋法条約のもとに 沿岸海域では海洋環境を保全しつつ増養殖業による水産資源の増産 沖合海域では魚類資源の持続的生産および水産資源の高度利用を基本にして発展して行かねばならない 今後も増え続ける人口を養い その生活を維持するために食用魚介類に対する需要は世界的に強まっている 我が国とタイの水産の研究に従事する研究者は 21 世紀の水産業発展に貢献するため 深く連携をとりながら 高度な技術を駆使した 持続的産業として 水産業を発展させねばならない このために日本とタイ両国間の共同研究により 3 つの柱 (1) 魚介類の種苗生産技術および飼育技術の改良 新しい養殖飼料の開発 養殖場の環境浄化 さらに 魚介類の病気の防疫体制が確立されること等による養殖生産量の増加 (2) タイ沿岸の水産生物に対する適切な資源量の評価ならびに資源解析結果に基づく漁具 漁法等の漁業技術の改良 開発により 生態系を維持した管理型漁業への推進 定着化 (3) 未知海洋資源の効率的利用が図られ 付加価値向上の技術開発ならびに先端加工貯蔵技術の開発により 熱帯水圏特有の悪条件にも長期保存が可能な水産食品の製造 で産業の発展と国民の動物性タンパク質の確保に関する研究に取り組んだ 本事業では 4~6 のサブプロジェクトを設け 10 年間の事業期間を 4 年 ( 第 1 フェーズ : 平成 年度 ) 3 年 ( 第 2 フェーズ : 平成 年度 ) 3 年 ( 第 3 フェーズ : 平成 年度 ) に分け実施した 日本とタイ研究者との共著の論文を 154 編発表して来ており 研究交流活動は順調に発展した 初年度以外は毎年セミナーを開催し 本事業を発展させるための情報交換や討論を実施した 本事業により魚介類の分子生物学的研究が発展するとともに 得られた知見を基に魚介類養殖技術発展に分子レベルでのアプローチが可能となった タイ国養殖業における食品安全性確保に対するHACCP 概念を広めたことは 現在 タイ国政府が進めようとしている Kitchen of the World: 世界の台所計画 等にも貢献しているものと考えている タイ国の水産業はメコン川に棲息する魚類資源に依存している部分が有り 本拠点事業による共同研究でメコン川に棲息するナマズ類の資源調査を遺伝子レベルで行える手法を開発したことは これまで以上に正確に資源調査を実施できることになり 天然食資源の乱獲による枯渇の危険を回避することが可能になると考えられるとともに 本研究成果は東南アジアの水産学および水産業にモデルとして示すことができたと思われる 日本の定置網技術導入の事業が東南アジア漁業開発センターの沿岸域管理プロジェクトとして実施され 地域漁村振興と沿岸資源管理手法として成果をあげた さらに 漁業技術 資源生物 漁業経済の専門分野からの支援体制を構築した 水産食資源の有効利用と付加価値向上のための技術開発においても 未利用資源の開発 有効利用 廃棄されている水産資源の再利用や有効利用について多くの成果を得た また タイ国のみならず 多くの発展途上国に対して 本事業によるこれらの成果の普及を行うことができた また 当該成果は研究のみならず タイにおける水産業や食品産業にも貢献して来ている このことは タイから多くの食品を輸入している我が国へも間接的ではあるが多大な貢献をしていると考えられる 両国の多数の若手研究者が本事業に参加するようになり 次世代の若手研究者間の交流も盛んになって来ており 両国間の水産学分野における更なる共同研究の発展が期待される 2

3 Summary of the project Japan is one of the biggest seafood consuming countries in the world and it imports a lot of its seafood requirement including its by-products from Thailand. This international trade is good not only for the industry of Thailand but for Japanese consumers as well. Hence, there is a need to support and expand such beneficial relationship. To do this, it is necessary to develop new scientific technologies that are more efficient than that of present day methods. In addition, world population is increasing and so is the demand for seafood. It is therefore imperative to produce more seafood supply to support present and future populations. Fishing and aquaculture are envisioned to be useful technologies for this purpose. However, there is a need to develop some technologies for stable and high performance fishing and for the production of fish and shellfish having high quality traits for cultivation such as disease resistance, fast growth, and efficient adaptive capabilities in response to environmental changes. With these in mind, a cooperative research was formed between Japan and Thailand with an aim to develop productivity techniques for effective and efficient utilization of aquatic animal resources such as to provide innovative technologies for high performance production system, which will be of great use to the fishing and, fish and shellfish cultivation industries and other related sectors. The cooperative research project carried the theme "Productivity techniques and effective utilization of aquatic animal resources into the new century" and was divided into three terms, the first term being , 2nd term from , and third term inclusive of It highlighted three major scientific projects encompassing the fields of aquaculture, fisheries science and technology, and food science and technology: (1) Development of new technologies for aquaculture using molecular biological techniques to produce genetically improved or select fish and shellfish to in turn, produce high quality food sources. This particular section also aimed to identify methods to prevent and to combat infectious diseases in aquaculture using histopathological and molecular biology techniques, and also to target the renovation of deteriorated aquaculture farming areas. (2) Comparative studies on fishing technology, from the perspective of environmental impact and gear selectivity for optimum development on a sustainable base, through technical improvements by transferable management tools from responsible fishing operations. (3) Improvement of seafood quality and value-added utilization of fishery products and by products. This section focused on improving fish and shellfish meat quality being utilized as seafood and, developing high value utilization of aquaculture wastes for industries. Through the project, we were able to develop new food resources with high-value traits using several techniques in marine biotechnology, molecular biology and genetic engineering. We also found several DNA markers in fish that are important in the fishing industry in Thailand. These markers can be used for population genetics analysis and could possibly be used to obtain information about environmental and genetic conditions of freshwater fishes in Thailand. In addition, we came up with a diagnostic method using monoclonal antibody and DNA/RNA of fish and shrimp pathogens. We also developed the fish health check method that is based on biochemical tests. Using all of our results in these projects, it will be possible to select healthy fishes for aquaculture. 3

4 Meanwhile, the Fishing Technology team focused on the responsible fisheries with the cooperative research on gear selectivity. Set-net Technology Transfer for community-based coastal management was the main topic of the team. Light Fishing Technology is another topic with the move from Thailand side for technical improvement to optimize the lighting technology, such as the introduction of LEDs, through the understanding of the cost-benefit of how to reduce the fishing effort by optimizing the operational cost in comparison with the catch ability according to the light output arrangement. This required the involvement of the fishers and cooperatives in setting the new rule through the research and development activities, with the emphasis of new concept on the resource sharing management. To improve the quality of seafood products the characteristics of fish muscle and gelation mechanisms were identified in order to understand the differences in gel forming ability of different fish species. The group also developed the technique for making edible film from fish and shellfish meal and byproducts of surimi. Furthermore, they developed a fish freshness testing kit with freeze-drying glass technique and isolated and characterized several bio-active compounds from marine organisms. In addition, the transfer of knowledge of HACCP to Thailand was undertaken. Apart from the encouraging results that were obtained, the partnership and bond that were developed through this collaborative project will help usher the young scientists and the fisheries industry not just in the two countries, but in the world into new century. 4

5 1. 事業の目標我が国は世界第一位の水産物輸入大国であり タイからも多くの水産物を輸入している 我が国とタイの水産学研究者は共同で 互いの国の産業の活性化と産業を支えるための科学技術の基盤を持続的に発展させる必要がある また 世界レベルで今後も増え続ける人口を養い その生活を維持するために食用魚介類に対する需要は世界的に強まっている これらのことから 我が国とタイの水産の研究に従事する研究者は 21 世紀の水産業発展に貢献するため 人的交流や共同研究により深く連携をとりながら 高度な技術を駆使した 持続的産業として 水産業を発展させることを目的として本事業に取り組むこととした 両国間の共同研究プロジェクトとして 3つの大きな柱を立て それぞれの目標を下記のように設定し 共同研究や研究者交流を実施した (1) 水産食資源動物の生産及び管理技術の開発 : 養殖生産量の増加を目指し バイオテクノロジーによる食として有用な魚介類生産技術開発 養殖場の環境改善 魚介類の病気の防疫体制の確立を目標とした (2) 資源再生産 管理型漁業に関する研究 : タイ沿岸の水産生物に対する適切な資源量の評価ならびに資源解析結果に基づく漁具 漁法等の漁業技術の改良 開発により 生態系を維持した管理型漁業への推進 定着化を目標とした (3) 水産食資源の有効利用と付加価値向上のための技術開発 : 未利用水産 海洋資源の効率的利用が図られ 付加価値向上の技術開発によるタイにおける先端加工貯蔵技術の開発により 熱帯水圏特有の悪条件にも長期保存が可能な水産食品の製造技術開発を目標とした 東京海洋大学 -カセサート大学( タイ ) 拠点大学交流 - 概要と背景 - 我が国の水産食資源はタイからの輸入に依存している タイ ( 輸出国 ) 日本 ( 輸入国 ) * 漁業生産 安全な水産物の安定供給の実現 * 資源管理型漁業の先導的役割 水産食資源の減少と枯渇 * 責任ある漁業の導入 (1998 年度のタイからの水産物の総輸入額は約 1,230 億円で タイからの輸入が最も多い ) * 養殖生産物 * 養殖 魚病技術研究の 種苗生産 養殖飼料魚病 養殖場の環境汚染 拠点大学方式による学術交流 先導的役割 * 水産加工食品 1. 水産食資源動物の生産及び管理 * 加工技術 貯蔵技術の技術の開発加工技術 貯蔵技術の後れ 2. 資源再生産 管理型漁業に関する先導的役割研究 3. 水産食資源の有効利用と付加価値向上のための技術開発 研究プロジェクトと研究グループの関係 5

6 研究プロジェクト 1. 水産食資源動物の生産及び管理技術の開発 第 1 フェーズ (2000 第 2 フェーズ (2004 第 3 フェーズ ( ) 2006) 2009) 養殖エビ類の分子生物学およ遺伝子工学的手法による魚介び環境生物学的研究類の改良ゲノム情報を利用した魚介類析の機能解析 マリンバイオテクノロジーによる魚介類有用遺伝子の機能解 病理組織学と分子生物学的魚介類の感染症に関する研持続的生産を目指した養殖技手法を用いた養殖魚介類の究術開発に関する研究感染症に関する研究 環境悪化したエビ養殖池の修 復と完全閉鎖系養殖システム 2. 資源再生産 管理型漁業の構築 熱帯水域における水産資源の熱帯水域における水産資源の に関する研究 保全と管理に関する研究水産資源生物の持続的開発に関する日タイ比較研究 保全と管理に関する研究 水産加工食品の品質改良に 3. 水産食資源の有効利用と海洋食糧資源および生理活関する研究海洋食糧資源の有効利用に付加価値向上のための技術性物質の有効利用に関する水産加工食品および廃棄物関する研究開発研究の付加価値利用 6

7 2. 事業の実施状況 2-1. 事業の全体的な体制 実施組織代表 : 松山優治東京海洋大学 学長コーディネーター : 廣野育生東京海洋大学大学院 教授本事業では 各サブプロジェクトのリーダーがタイ側の研究リーダーと研究計画等を立案し コーディネーターと日本側リーダーが参加する拠点委員会により研究計画ならびに交流研究者の評価 選考を行った 共同研究の実施においては 下記の協力大学の研究者に必要に応じて タイへの派遣およびタイ研究者の受け入れを依頼した 全参加者リストは本資料の最後に記載した 日本側およびタイ側研究協力大学等 日本側 相手国側 東京海洋大学 拠点大学 カセサート大学 松山優治 東京海洋大学 学長 実施組織代表者 Vudtechai Kapilakanchana カセサ ート大学 学長 廣野育生 東京海洋大学大学院 教授 コーディネーター Suriyan Tunkijjanukij カセサート大学水産学部 学部長 北海道大学 東京大学 東北大学 筑波大学 三重大学 広島大学 高知大学 宮崎大学 鹿児島大学 日本獣医生命科学大学 福山大学 水産大学校 香川大学 京都大学 東海大学 協力大学等 チュラロンコン大学 マヒドン大学 プリンスオブソンクラ大学 コンケン大学 チェンマイ大学 メージョー大学 ウボンラッチャナティー大学 ナレスアン大学 ワライラク大学 タクシン大学 水産庁付属研究所 7

8 2-2. 共同研究の体制 研究グループ毎ならびに事業のフェーズ毎に記載した フェーズ 1: 年 1. 遺伝子工学的手法による魚介類の改良 Gene Technology for improvement of fish and shellfish 日本側代表者 : 廣野育生 東京海洋大学 助教授タイ側代表者 :Padermsak JARAYABHAND チュラロンコン大学 助教授魚介類の各種臓器で発現している EST 解析のためのライブラリーの構築を行うとともに 水産学上興味のある遺伝子の構造 発現制御や機能について解析を行った 同時に EST 配列情報を基に cdna マイクロアレイの構築を行った さらに 有用形質発現のためのトランスジェニック魚介類の作出を目的としたプロモーター解析を行い 特徴を明らかにした また タイにおける淡水魚遺伝資源の利用と保全ならびに多様性評価のための DNA マーカーの単離を行った 2. 病理組織学と分子生物学的手法を用いた養殖魚介類の感染症に関する研究 The study on infectious diseases of farmed fish and prawn using histopathogical and molecular biological techniques 日本側代表者 : 延東真 東京海洋大学 教授タイ側代表者 :Nontawith AREECHON カセサート大学 助教授タイ国にとってエビ類は重要な輸出産物であるが エビ養殖にあたって多発する感染症はウイルス性 寄生虫性疾病を含め 抗生物質等で対処できないものも非常に多い しかし エビ類についてはその生体防御能についての基礎的知見が乏しく このプロジェクトではエビ類の生体防御能の特徴を明らかにすることから実施した タイ国における養殖ウシエビへの水産用医薬品の代謝 適正投与 残留などを調べるため 薬物速度論的手法を用いて研究した 魚類ワクチン開発にあたってその作用機序を探るため細菌の何が抗原となっているかを調べ 一部明らかにした プロバイオティクスやハーブの利用を進め 抗ウイルス物質産生腸内細菌や各種ハーブの餌料への添加効果を検討した 3. 環境悪化したエビ養殖池の修復と完全閉鎖系養殖システムの構築 Renovation of Deteriorated Shrimp Farming Ponds and Establishment of Closed System for Shrimp Farming 日本側代表者 : 松村正利 筑波大学 教授タイ側代表者 :Yont MUSIG カセサート大学 水産学部長共同研究課題として 放置されたエビ養殖池の再生技術の開発 閉鎖系養殖システムの構築 養殖シミュレーション手法の開発および White spot virus 抗体検出法の開発を実施した そのうち 放置されたエビ養殖池の再生技術の開発 と 閉鎖系養殖システムの構築 はタイで実施し 残りの研究課題は日本において実施した 4. 水産資源生物の持続的開発に関する日タイ比較研究 Comparative studies on the fisheries biology related to the sustainable fishing technology 8

9 日本側代表者 : 有元貴文 東京海洋大学 教授タイ側代表者 :Chaichan MAHASAWASDE カセサート大学 助教授タイ湾でのトロール操業による資源枯渇は大きな問題であり 同時に底魚類から表層性回遊魚へ漁獲対象を転換しての乱獲が進行中という厳しい状況にある この解決のために 沿岸漁業 沖合漁業の持続的発展を目指して 合理的な資源開発の技術を構築して行くことが最優先課題であり 日本で進められている資源管理型漁業の方向性を定着させ 責任ある漁業体制の確立に向けた研究を行った また 資源生物学に関する分野では 魚類 甲殻類 足類等の水産重要種についての成長と再生産機構に関する研究を展開した 5. 水産加工食品の品質改良に関する研究 Improvement of seafood quality 日本側代表者 : 田中宗彦 東京海洋大学 教授タイ側代表者 :Soottawat Benjakul プリンスオブソンクラ大学 講師タイ湾で漁獲され冷凍すり身製造に使用される魚種を対象に 魚肉タンパク質のゲル形成能を幅広く調べた ゲル形成能に及ぼす凍結貯蔵の影響についても検討した また 水産食品の品質改善にあたって 微生物由来のトランスグルタミナーゼとキトサンの添加効果について調べた タイで製造されるイカ乾燥品のテクスチャー改善を試みた もう一つの一連の研究では 加熱加工水産食品の最終到達温度の測定方法を検討した 6. 水産加工食品および廃棄物の付加価値利用 Value-added utilization of fisheries products and by products 日本側代表者 : 大島敏明 東京海洋大学 助教授タイ側代表者 :Wanchai WORAWATTANAMATEEKUL カセサート大学 講師未利用水産物の利用としてイカ類内臓中の抗酸化成分の探索を行った タイにおける重要な産業であるシルク産業において未利用な蚕さなぎの有効利用法の開発として 蚕さなぎを動物用飼料として有効利用を目指した研究を実施した フェーズ 2: 養殖エビ類の分子生物学および環境生物学的研究 Molecular and environmental biology in shrimp aquaculture 日本側代表者 : 青木宙 東京海洋大学 教授タイ側代表者 :Yont MUSIG カセサート大学 水産学部長耐病性エビ作出を最終目標とし クルマエビおよびウシエビを用いた cdna マイクロアレイによる病原微生物感染時の遺伝子発現の解析を行った さらに トランスジェニックエビを作出するための技術開発を実施した また エビ養殖池の元素組成およびその濃度変化とエビ個体の元素組成とエビの成長速度の関連を比較検討し エビ養殖池の環境変化とエビの健康度についてエビ生体含有元素組成を測定することを試みた 2. ゲノム情報を利用した魚介類の機能解析 Genomics and genetics in fish and shellfish 9

10 日本側代表者 : 廣野育生 東京海洋大学 准教授タイ側代表者 :Padermsak JARAYABHAND チュラロンコン大学 助教授魚介類の各種臓器で発現している EST 解析を行うとともに 個々の有用遺伝子の構造や機能について解析を行った 同時にマイクロアレイを用いた発現解析および有用形質発現のためのトランスジェニック魚介類の作出を実施した 3. 魚介類の感染症に関する研究 The study on infectious disease in fish and shellfish 日本側代表者 : 延東真 東京海洋大学 教授タイ側代表者 :Nontawith AREECHON カセサート大学 准教授エビ養殖に被害をもたらすウイルス病を撲滅する目的で エビ血球と卵巣細胞の培養を用いてエビ病原性ウイルスの培養を試み ウイルスの性状を解析した また 細菌感染症に対する対策を確立するために オキソリン酸を用いて 比較薬物動態についても検討した さらに 北部地域のナマズ 南東地域のカニの卵や幼生におけるミズカビ病の防除法を確立することを目的とし 疫学的調査を行った これらと同時に 安全な養殖エビを生産するための養殖環境のモニタリングおよび汚染実態を調査および養殖餌料に添加する有用微生物の検索を行った 4. 熱帯水域における水産資源の保全と管理に関する研究 Fisheries biology for the resource conservation and management in the tropical area 日本側代表者 : 有元貴文 東京海洋大学 教授タイ側代表者 :Chaichan MAHASAWASDE カセサート大学 准教授タイの海洋資源の利用としては 1960 年代に 10 万トンから 100 万トンまで生産量を伸ばし その後も 1990 年に入ってからは 200 万トンを越える生産を続け タイ湾を中心とした漁業は乱獲による資源枯渇に陥っている 資源調査を基礎に置いた持続的且つ高度な資源利用に向けて 日本との共同研究を通して人材の養成 調査 研究方法の確立 さらには持続的資源利用のための漁獲技術開発を進めるために 漁業対象重要種となる魚類 甲殻類 頭足類の成長や再生産に関する生物学的研究 並びに持続的開発を可能とする漁獲技術に関する研究を実施した また 沿岸域資源管理の手法確立のために定置網漁業導入による小規模漁業者の共同操業体制の確立に協力し 漁業経営面からの総合的な検討をした 5. 海洋食糧資源の有効利用に関する研究 Effective Utilization of Marine Food Resources 日本側代表者 : 田中宗彦 東京海洋大学 教授タイ側代表者 :Wanchai WORAWATTANAMATEEKUL カセサート大学 講師養殖魚介類の品質向上と環境にやさしい養殖業を確立するため 生物分解性の素材の開発 無駄の無い魚肉加工技術の向上 海藻 魚類内臓などの未利用廃棄物の有効利用技術の開発に関する研究を行った フェーズ 3: 年 1. マリンバイオテクノロジーによる魚介類有用遺伝子の機能解析 Functional marine biotechnology 10

11 日本側代表者 : 廣野育生 東京海洋大学 教授タイ側代表者 :Anchalee TASSANAKAJO チュラロンコン大学 教授本研究グループはバイオテクノロジーの技術を水産学に反映させ 駆使することにより食糧増産を目指すものである 本研究グループは クルマエビ類および海産養殖魚の免疫 生体防御に着目し 現在の養殖に於いて最も問題となっている微生物感染症の克服を行うとともに タイ国の水産資源の枯渇を防ぐために 分子生物学的アプローチにより資源量推定や遺伝学的多様性確保に向けた情報蓄積と技術開発を目的に実施した 2. 持続的生産を目指した養殖技術開発に関する研究 The study on development of new technology for sustainable aquaculture 日本側代表者 : 舞田正志 東京海洋大学 教授タイ側代表者 :Nontawith AREECHON カセサート大学 准教授食品の安全性確保に対する要求は 世界的に大きな流れとなっており アメリカ EU 日本をはじめとする食品輸入国は 様々な食品の基準を定め それに合致することのみならず 生産から流通の各段階で適切な管理を行うことを要求するようになってきている このような背景を踏まえ 本研究グループの目的である環境保全型養殖および生産物の安全性に求められるより高度な養殖技術と管理システムに関する情報交換ならびに共同研究の実施を行うために a) 水産用医薬品に依存しない疾病制御に関する基礎的研究ならびに技術開発 b) 環境にやさしい 安全な養殖生産のための革新的技術ならびに管理システム構築のための研究に加え c) 化学物質の養殖魚介類に対するリスク評価を主要テーマとして設定し 共同研究を実施した 3. 熱帯水域における資源保護と管理 Resource conservation and management in the tropical area 日本側代表者 : 有元貴文 東京海洋大学 教授タイ側代表者 :Monton ANONGPONYOSKUN カセサート大学 准教授タイの水産業生産量は 1990 年代以後 350 万トンレベルを維持し 世界のなかで上位 10 カ国に入る漁業国である しかし 海洋資源の利用としては 1960 年代に 10 万トンから 100 万トンまで生産量を伸ばし その後も 1990 年に入ってからは 200 万トンを越える生産を続け タイ湾を中心とした漁業は乱獲による資源枯渇に陥っている 特に 沿岸 沖合漁業として表層性のマアジ イワシ イカ類 また底生性のニベ イトヨリ エビ類について持続的な生産を図るための方策確立が急務となっている このような沿岸 沖合での厳しい資源環境のなかで遠洋漁業への進出も図られ 近年はカツオ マグロ類の生産を伸ばしてきているが 実際には漁獲努力量の適正配分とはならず 過剰漁獲に陥る しかし まだ種々の問題が山積しているのが現状である このような漁業と水産資源の状況は東南アジア全域に見られるものであり 熱帯水域における漁業の特性を理解し 漁業が海の環境や資源に与える状況を明らかにし その影響を最小化するための技術開発について検討した 4. 海洋食糧資源および生理活性物質の有効利用に関する研究 Effective utilization of marine food resources and bio-active compounds 日本側代表者 : 大島敏明 東京海洋大学 教授タイ側代表者 :Wanchai WORAWATTANAMATEEKUL カセサート大学 准教授 11

12 世界の漁獲生産量は 2000 年に1 億 4 千万トンを超えてから ほとんど頭打ち状態である その中で 過剰漁獲されている資源は 70% に達し 世界人口の増加速度を考慮すると 食糧資源としての水産物はいずれ枯渇すると予想される また 世界の漁獲量の 30% は漁獲現場で by-catch のために投棄されるか 鮮度管理不備のために腐らせて利用されていないという 本問題を解決するには 未利用資源の開発 有効利用 廃棄されている水産資源の再利用や有効利用が不可欠である 本グループでは このような世界的問題の解決の一助となるべく共同研究を実施した 2-3. セミナーの実施状況本事業 2 年目の平成 13 年度から計 10 回を 日本あるいはタイにおいて開催した これらのセミナーではプロシーディングス集あるいは要旨集を発刊した 平成 13 年度開催セミナータイトル : エビ養殖における環境問題と病気について Sustainable shrimp culture and health management 開催日程 : 平成 13 年 9 月 29 日平成 13 年 9 月 30 日 (2 日間 ) 開催地 : 東京都港区東京海洋大学 ( 当時は東京水産大学 ) 参加者 :55 名 ( 参加国 : 日本 タイ アメリカ スウェーデン フィリピン インドネシア 台湾 ベトナム ) 平成 14 年度開催セミナータイトル : 養殖における環境と魚病に対する総合的対策 Perspective Approavhes for Environmental and Health Management in Aquaculture 開催日程 : 平成 14 年 11 月 18 日 (1 日間 ) 開催地 : タイラヨン市内ホテル参加者 :300 名 ( 参加国 : 日本 タイ ) 平成 15 年度開催セミナータイトル : 魚介類養殖における生産性と食品安全性 Productivity and food safety in aquaculture 開催日程 : 平成 15 年 12 月 14 日 ~ 平成 15 年 12 月 16 日 (3 日間 ) 開催地 : タイラヨン市内ホテル参加者 :45 名 ( 参加国 : 日本 タイ ) 平成 16 年度開催セミナータイトル : 養殖安全管理と HACCP Management of food safety in aquaculture and HACCP 開催日程 : 平成 16 年 12 月 20 日 ~ 平成 16 年 12 月 21 日 (2 日間 ) 開催地 : タイカセサート大学参加者 :75 名 ( 参加国 : 日本 タイ ) 平成 17 年度開催セミナー 12

13 タイトル : 新世紀における水産食資源動物の生産技術および有効利用に関する研究 -I Productivity techniques and effective utilization of aquatic animal resources to the new century-i 開催日程 : 平成 17 年 12 月 19 日 ~ 平成 17 年 12 月 21 日 (3 日間 ) 開催地 : タイカセサート大学参加者 :166 名 ( 参加国 : 日本 タイ ) 平成 18 年度開催セミナータイトル : 新世紀における水産食資源動物の生産技術および有効利用に関する研究 -II Innovative Technology for the Sustained Development of Fishery and Aquaculture 開催日程 : 平成 18 年 12 月 18 日 ~ 平成 18 年 12 月 20 日 (3 日間 ) 開催地 : タイカセサート大学参加者 :188 名 ( 参加国 : 日本 タイ ) 平成 19 年度開催セミナータイトル : 新世紀における水産食資源動物の生産技術および有効利用に関する研究 -III Innovative Technology for the Sustained Development of Fishery and Aquaculture -III 開催日程 : 平成 19 年 12 月 17 日 ~ 平成 19 年 12 月 18 日 (2 日間 ) 開催地 : タイカセサート大学参加者 :182 名 ( 参加国 : 日本 タイ ) 平成 20 年度開催セミナータイトル : 新世紀における水産食資源動物の生産技術および有効利用に関する研究 -IV Innovative Technology for the Sustained Development of Fishery and Aquaculture -IV 開催日程 : 平成 20 年 10 月 25 日 (1 日間 ) 開催地 : 東京都港区東京海洋大学参加者 :106 名 ( 参加国 : 日本 タイ インドネシア 韓国 ) 平成 21 年度開催セミナータイトル : 新世紀における水産食資源動物の生産技術および有効利用に関する研究 -V Productivity techniques and effective utilization of aquatic animal resources to the new century-v 開催日程 : 平成 21 年 12 月 14 日 ~ 平成 21 年 12 月 15 日 (2 日間 ) 開催地 : タイラヨン市内ホテル参加者 :86 名 ( 参加国 : 日本 タイ インドネシア ) 最終セミナータイトル : 新世紀における水産食資源動物の生産技術および有効利用に関する研究 -VI Productivity techniques and effective utilization of aquatic animal resources to the new century-vi 開催日程 : 平成 22 年 2 月 26 日 ~ 平成 22 年 2 月 27 日 (2 日間 ) 開催地 : 東京都港区東京海洋大学参加者 :70 名 ( 参加国 : 日本 タイ ) 13

14 2-4. 研究者交流など その他の交流状況 研究者交流は タイから短期 (1 週間程度 ) から長期 (2 か月 ) の招聘研究者及び本事業枠が設けられている文部科学省奨学生として博士課程学生 1 名等を毎年受け入れた タイからの招聘研究者についてはグループ毎にノミネートし コーディネーターを含むグループ代表とで検討して決定した 日本からの派遣研究者についても同様に選考を行い決定した 以下に 交流状況を表にまとめた 年度毎の交流人数 ( 研究者交流と共同研究 ) 日本からの派遣 タイからの招聘 H H H H H H H H H H 事業に対する相手国拠点大学 対応機関との協力状況 事業開始当初は本学との研究連携の重要性をタイ国側の各対応機関が十分に理解し 学術交流協定を通じた交流強化を図るためにカセサート大学 チュラロンコン大学 プリンスオブソンクラ大学 そして東南アジア漁業開発センターと協定の締結を行った この協力状況のなかで カセサート大学創立 60 周年シンポジウムや東南アジア漁業開発センターのミレニアム会議に招聘を受け 特別講演や会議アドバイザー 議長等の役割を担当してきた 相互に訪問し交流することによって 互いの状況を具体的に把握でき 研究交流を推進することができた カセサート大学 チュラロンコン大学 マヒドン大学 プリンスオブソンクラ大学あるいはタイ水産庁研究所等のタイ側主要大学 研究所関係者との関係は大変良好なものを築くことができた 当初の研究情報交換に始まり すぐに互いの研究に不足する部分を補い合う関係に発展した タイにとってエビ類と観賞魚は重要な輸出産業であり それらは従来から日本側にとっても大きな研究テーマでもあったことが その一因である それらを含め様々な研究テーマについて 日タイ両国の研究者や学生が共同でプロジェクトを推進する過程で様々な課題について議論し 日タイ両国の抱える問題について理解することができた 10 年間でタイ国との良好な学術交流体制及び研究協力体制の基礎は確立できたと考えている 両国コーディネーターによる会談では 今後もこの 10 年間の交流を無駄にしないよう 互いに更なる交流の発展のため努力する必要があるという意見を交わした 14

15 その他に タイにてセミナーが開催される際には東京海洋大学から学長と事務職員数名が同行し セミナー終了後に日本側コーディネーター等と共にカセサート大学 マヒドン大学あるいはチュラロンコン大学等の国際交流事務担当者等と会談し 互いの国際交流状況や本事業の交流について意見交換し 事務局レベルでの協力体制の構築に繋げることができた また タイ側学術振興機関である NRCT を訪問し 本事業における共同研究や研究者交流の重要性を説明し理解を得ることができた さらに 在東京タイ大使館の全権大使や農林水産関係担当公使および教育担当公使を東京海洋大学に招待し 学長をはじめ関係者との懇談の中で今後の両国の研究交流維持の重要性について相互に確認し 協力体制の構築と発展に努めた 15

16 3. 事業を通じての成果 3-1. 交流による学術的な影響学術的な成果について 3 つのフェーズ及び研究グループ毎に分けて記載した フェーズ1 における研究成果 遺伝子工学的手法による魚介類の改良甲殻類の性決定機構を明らかにし 成長が早い雌を遺伝子工学的に作出するためにウシエビの未成熟卵巣 cdna ライブラリーを構築した この cdna ライブラリーを用いて発現遺伝子配列標識大規模解析 (EST) を行った 本研究により ショウジョウバエにおいては卵巣において特異的に発現がみられる遺伝子と類似の遺伝子がクローン化できた この遺伝子の発現組織について解析したところ メスに特異的に発現しているものではなかったが ウシエビの卵巣においては分子サイズの異なる遺伝子の発現が確認され この遺伝子が卵巣特異的に発現していることが示唆された クルマエビ類の生体防御機構を明らかにし 遺伝子工学的に病気に強いクルマエビ類を作出するために クルマエビおよびウシエビについて ウイルス感染あるいは細菌感染エビと健康なエビの血球の cdna ライブラリーを構築し EST 解析を行った 本解析により種々の生体防御関連遺伝子がクローン化できた クルマエビおよびウシエビよりクローン化した 生体防御関連遺伝子のうち 病原微生物認識に関与するペプチドグルカン結合タンパク質 病原微生物を包み込む分子の活性化に関与するトランスグルタミナーゼならびに病原微生物が産生するプロテアーゼの働きを抑制する α2 マクログロブリンについて構造を明らかにした さらに これら遺伝子の発現を定量的に測定するリアルタイム PCR 法を開発した これら遺伝子は免疫賦活剤である β グルカン投与により遺伝子発現が上昇することが明らかとなった エビ類の有用遺伝子探索と機能解析の研究として クルマエビおよびウシエビ cdna クローンを用いた cdna チップを作製した 次いで クルマエビおよびウシエビの血球細胞を用いたマイクロアレイ解析を行い 作製した cdna チップが遺伝子発現解析に有用であることを明らかにした 有用遺伝子導入魚介類の作出トランスジェニック魚において導入した遺伝子の発現制御を行うことを目的として ヒラメ メダカおよびクルマエビより種々遺伝子のプロモーターをクローン化し 構造を明らかにした メダカよりクローン化した 2 種類の長さの異なるトランスフェリンプロモーターの転写活性は長い方が短い方より強いことが明らかとなった ヒラメからは補体第 3 成分 ケラチン 腫瘍壊死因子およびゲラチナーゼ遺伝子のプロモーターをクローン化し プロモーター活性についてゼブラフィッシュを用いた発現系で調べた これら 4 種類のプロモーターはそれぞれ特徴的な遺伝子発現制御活性を持つことを明らかにした これらのプロモーターを用いることによりトランスジェニック魚に導入した遺伝子の発現が特定の臓器に限定できるとともに特定の刺激により 遺伝子発現を誘導することが可能となった 甲殻類の遺伝子改良を行うためには 甲殻類で目的の遺伝子を発現させるための DNA 配列が必要である そこで すべての細胞で発現する遺伝子である伸長因子 (EF-1α) の cdna をクローン化し構造解析を行った 次いで EF-1α 遺伝子プロモーターをクローン化し その活性を調べた クルマエビ由来の EF-1α 遺伝子プロモーターはウシエビ細胞内で機能することが明らかとなり トランスジェニッ 16

17 クエビ作出のための遺伝子発現系として利用できることが明らかとなった ウシエビ受精卵を用いた遺伝子導入法を検討した結果 遺伝子銃を用いた DNA 導入法がクルマエビ類への遺伝子導入法として適していることがわかった これまでに 緑色蛍光タンパク質遺伝子をウシエビ受精卵に導入し 緑色蛍光タンパク質の発現を確認することが可能になった タイにおける淡水魚遺伝資源の利用と保全に関する研究メコン川流域のウボンタニから下流に向けウボンラチャタニまでの間で漁村および魚市場を訪れ 本川産の多数の淡水魚を観察し 遺伝的保全対象となる絶滅危惧種および危急種については遺伝的多様性評価のため これらから DNA 用サンプルを採集した これら野生個体を用いて DNA マーカーの開発を行った これらマーカーを用いて 野生個体における遺伝的変異性を調べたところ全てのマーカー座の遺伝子型が同じ個体の組合せは観察されなかった 病理組織学と分子生物学的手法を用いた養殖魚介類の感染症に関する研究タイ国にとってエビ類は大変重要な輸出産物であるが エビ養殖にあたって多発する感染症はウイルス性 寄生虫性疾病を含め 抗生物質で対処できないものも非常に多い それらに対しては日本でも同様であるが 生体防御能を利用した防除対策が模索されている しかし エビ類についてはその生体防御能についての基礎的知見が乏しく このプロジェクトではエビ類の生体防御能の特徴を明らかにすることから始められた エビの血球から産生される一酸化窒素の測定系の確立を試みた結果 エビにおいては脊椎動物同様に一酸化窒素の産生が確認された またウシエビに White Spotウイルス (WSV) を実験感染させ ウイルス抵抗性の発現について検討したところ 3 週間後に明らかな抵抗性が発現し その後 40 日間維持されることが明らかになった 本抵抗性は 不活化 WSVあるいはウイルス組換えタンパク質の接種でも誘導されることが明らかになった つまり 大腸菌で発現したWSVの構造タンパク質 (rvp26およびrvp28) をクルマエビに接種し1か月後にWSVで攻撃したところ クルマエビはWSVに対し抵抗性を示した この結果により rvp26およびrvp28はwsvに対するワクチンとして使用可能であることが示された さらに WSVの予防策を確立するため 消毒剤の探索 ウイルスキャリアーとなる甲殻類の駆除法 およびフコイダンや免疫賦活物質による予防効果を検討し 本病に対する総合的な防疫対策の具体的方向性を明らかにすることができた またエビ類養殖では細菌性疾病による被害も大きい その対策として抗生物質の使用が許可されているが 抗生物質の残留性は食品 公衆衛生上の大問題で タイ国のエビ養殖産業にとって大きなリスクとなる タイ国における養殖ウシエビへの水産用医薬品の代謝 適正投与 残留などを調べるため 薬物速度論的手法を用いて研究した 2002 年から 2004 年までは その基礎実験として エビへの強制経口投与や血リンパ投与法の検討を行った さらにオキシテトラサイクリンを用いて比較薬物動態を調べた オキシテトラサイクリンの残留性から判断して その使用後 1か月間を休薬期間として置く必要があることが明らかとなり エビ類養殖に使われる抗生物質の食品 公衆衛生上の問題を研究するにあたって 今後のモデルケースとなった この他 魚類養殖がタイ国内でも盛んであるが 各種の魚病が大きな被害を与えている その対策として世界的にワクチンや免疫賦活剤など免疫療法が今後の主流となることは明らかである レンサ球菌感染症はタイ国でも猛威を振るっているが 現在その原因菌であるレンサ球菌のワクチン開発が急がれている ワクチン開発にあたってその作用機序を探るため細菌の何が抗原となっているかを調べた その結果 細胞表面には線毛が存在しており この線毛が感染防御に関与している可能性があり 病 17

18 原因子である莢膜は感染防御抗原ではないことが示された 免疫賦活剤であるペプチドグリカンを投与した魚で発現する免疫系遺伝子の解析を行ったところ CCケモカイン CD インターロイキン 1など免疫系の遺伝子の発現が確認された また 有用細菌を利用するプロバイオティクスやタイ国産ハーブの導入も魚病対策として有望であると考えられている プロバイオティクスやハーブの利用を進め 抗ウイルス物質産生腸内細菌や各種ハーブの餌料への添加効果を検討し その可能性が示された タイ国では観賞魚や養殖魚の新しい疾病は毎年のように発生があり 報告されている この様な新しい感染性疾病は 観賞魚や養殖種苗の輸入を通して日本国内に広がり深刻な被害を与えることも考えられる 事実 昨年から深刻な被害を与えているコイヘルペスウィルス症は東南アジアまたは中国から日本国内へ持ち込まれたと考えられている そのためタイ国での新しい疾病の発生を十分把握しておくことは防疫上の重点課題の一つと言える 観賞魚種におけるアメーバ症に焦点を絞り なるべく多くの症例を収集することを目的とし 病魚からの原虫の分離培養および病理組織標本作製を実施した これまでに得られた原虫株および真菌株の同定作業を進めると同時に 真菌症以外の自然発生性疾病の病理組織学的検討を継続実施した また化学療法にもかかわらず観賞魚に大量死を繰り返し起こす疾病について病理組織学的に検討し その病原体が Mycobacterium 感染症であり そのため化学療法の効果がないことを明らかにした 同時に養殖魚および天然魚から分離された Mycobacterium の分子生物学的性状を 16S リボゾーム RNA 遺伝子を用いて検討した 分離された菌株はすべて Mycobacterium marinum と同定された 系統樹を作成した結果 タイから分離された菌株は M. marinum の標準株に近かった エビ類の新しいウイルス性疾病に対応するため 新しいエビ由来の培養細胞法が求められている クルマエビの卵巣細胞の培養方法について検討し 初代培養方法を確立するとともに 試験管内での細胞の増殖を確認した 環境悪化したエビ養殖池の修復と完全閉鎖系養殖システムの構築研究課題 ( 放置されたエビ養殖池の再生技術の開発 閉鎖系養殖システムの構築 養殖シミュレーション手法の開発 WSV 抗体検出法の開発 ) の中で 放置されたエビ養殖池の再生技術の開発 と 閉鎖系養殖システムの構築 はタイで実施し 残りの研究課題は日本において実施した タイでの実施課題の中で 閉鎖系養殖システムの構築 を最優先課題とし 共同研究に着手した 研究課題の実施場所としてカセサート大学所属のエビ養殖実験池を使用すること 実験実施に必要な機器は日本側が貸与し 研究を開始した オゾン発生装置および流動促進装置を移送した タイ招聘研究者に電気分解による底質改善技術を指導し 廃棄養殖池の再生の可能性を検討した エビ養殖で最も問題となっている病原微生物感染症の原因ウイルスである WSV に対するモノクローナル抗体を作製した この抗体を用い 研究グループ 2 との共同研究により 免疫クロマトグラフィーによるエビのホワイトスポットウィルスの簡易検出方法を開発し キット化した 本キットの製品化は 科学技術振興事業団の平成 14 年度独創モデル化事業として実施され 日商岩井株式会社 ( 当時 ) から海外向けに発売されている 細菌の集団感知に関わる細胞間コミュニケーション物質 (autoinducer) の微細藻類細胞の増殖制御に関する研究について実施した エビ養殖池等の環境では 餌として与える微細藻類もしくは自然発生的な微細藻類の増殖と 共存もしくは病原性の細菌類の増殖が競合関係にある 養殖池の環境悪化は過度に増殖した微細藻類が死滅し 大量の溶存有機物が供給されることによってバクテリア 18

19 の増殖が促進され引き起こされる また エビ養殖池で増殖する微細藻類は養殖池毎にその種類が変化し また同一養殖池内で微細藻類の遷移が起こる その原因は全く不明なままであり その解明がエビ養殖池の環境保全と修復の鍵となっている このような背景において グラム陰性細菌が細胞密度に応じて細菌細胞間の化学的コミュニケーション (quorum sensing) 物質として生産する autoinducer が 淡水産単細胞緑藻 Chlamydomonas に対してどのような影響を与えるかについて研究した その結果 これらの物質が光合成電子伝達系を阻害して 微細藻類の増殖と生態分布に影響する可能性を示した エビ養殖池における微細藻類の増殖を制御する要因として 微量元素の影響があるものと推定した なぜならば 主要元素はエビの餌として十分供給され 過剰供給ではあっても制限要因となっていることは考えられないためである そのため タイのエビ養殖池 ( 主にカセサート大学実験養殖池を用いている ) から採取した微細藻類および当研究室に保存する海産性微細藻類を材料にして まず微細藻類細胞に蓄積されている微量元素を定量した 定量には 多元素同時解析に有効な PIXE (Positro-induced X-ray Emission) 分析法 ICP-AES (Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy) ICP-MS (Inductively Coupled Plasma Mass Spectroscopy) を用いた その結果 海産性のハプト藻および緑藻類において 特徴的な元素分布のあることを明らかにした (Marine Biotechnology, in press) しかし 異なるエビ養殖池から得られた微細藻類試料においては セレン含量が一部異なること以外には微量元素組成に特徴的な差はみられなかった 更に試料数を増やして分析を行っている 水産資源生物の持続的開発に関する日タイ比較研究タイ国において タイ湾でのトロール操業による資源枯渇は大きな問題であり 同時に底魚類から表層性回遊魚へ漁獲対象を転換しての乱獲が進行中という厳しい状況にある この解決のために 沿岸漁業 沖合漁業の持続的発展を目指して 合理的な資源開発の技術を構築して行くことが最優先課題であり 日本で進められている資源管理型漁業の方向性を定着させ 責任ある漁業体制の確立に向けた研究を行うものである そのために カセサート大学 東南アジア漁業開発センターおよびタイ国水産研究所との交流から アジアの熱帯水域で直面する漁業資源の窮状に対して技術面からどのような対応を行うかの議論を進め 集魚灯漁業ならびに漁獲選択性の問題をとりあげて 特にトロール漁業の混獲投棄問題について集中的な検討を進めてきた この問題はアメリカ合衆国が海亀混獲の生じうるエビトロールの漁獲物輸入禁止を打ち立てたことに関連し 先ずはタイ国内で海亀混獲防除装置の導入を開始し さらにこの技術を幼稚魚混獲防除装置として転用するに至っている 東南アジア漁業開発センターは タイ国内で完成した技術を域内のフィリピン マレーシア インドネシア等の各国へ技術移転する努力を続けており 東南アジア全域を対象とした大きな事業となってきている また 沿岸域資源管理のための技術的対応として現状の漁具漁法の現地調査を行い 特に集魚灯漁法の光源種類と出力についての情報を収集してきた この他に 沿岸での小規模漁業者の協業化による資源管理を目的として 日本の定置網技術の導入プロジェクトがタイ湾で実施されており これに協力して定置網敷設と操業技術指導に参加してきた 資源生物学に関する分野では 魚類 甲殻類 足類等の水産重要種についての成長と再生産機構に関する研究を展開してきた 魚類については耳石を用いた年齢査定と日成長解析の技術指導を行い アンダマン海のマグロ類についての漁獲物年齢構成に関する研究を行っている 他に 沿岸性 沖合性のカニ類とイカ類について各地でのサンプリングを実施した 19

20 水産加工食品の品質改良に関する研究まずタイ湾で漁獲され冷凍すり身製造に使用される魚種を対象に 魚肉タンパク質のゲル形成能を幅広く調べた その結果 極めて近種である 2 種類の bigeye snapper Priacanthus tayenus と P. macracanthus のゲル形成能が大きく相違することを見出し その原因を追及した P. tayenus に比較して P. macracanthus 筋肉はよりタンパク質の分解を受けやすいこと 氷蔵中に Ca-APTase 活性が減少し ミオシンの変性が進行すること 内臓を除去して氷蔵するとタンパク質分解がかなり抑制されることが明らかになった また 両魚種間で顕著にゲル形成能が相違するのは 両魚肉の筋原繊維タンパク質の氷蔵中における分解と変性の速度が異なることに起因することを示唆した すり身製造に使用されるタイ産魚類 (croaker エソ イトヨリダイ bigeye snapper) のゲル形成能に及ぼす凍結貯蔵の影響について検討し いずれの魚種も冷凍貯蔵中に魚肉筋原繊維タンパク質の Ca-ATPase 活性が減少し Mg-EGTA-ATPase 活性は増加することから タンパク質が変性を起こしていることを明らかにした エソは他の魚種に比べて その傾向が最も大きかった また すべての魚種においてジスルフィド結合の増大が観察され かつ α-glucosidase と β-n-acetyl-glucosaminidase 活性が保水性の低下に伴って増加した すり身ゲルの破断強度 破断凹みは 凍結貯蔵時間とともに減少した これらのことから 冷凍貯蔵中におけるタンパク質変性は魚種によってある程度異なることを明らかにした エソのタンパク質変性が特に顕著であったため その原因を探求した エソは他の魚種に比べてホルムアルデヒドを生成し タンパク質溶解性が低下することが判明した ゲル形成能の減少も Ca-ATPase 活性の低下とホルムアルデヒドの生成に起因していた また エソの trimethylamine-n-oxide demethylase(tmaoase) を部分精製して その性状を詳細に検討した 本酵素の活性発現には塩化鉄 アスコルビン酸 システインが不可欠であることが判明した 酵素は食塩濃度 0.5M までは活性を示した 酵素の Km 値は 16.2mM で 本酵素は TMAO から DMA とホルムアルデヒドを生成する反応を触媒することを明らかにした 酵素の分子量はおおよそ 128kDa であった 水産食品の品質改善にあたって 微生物由来のトランスグルタミナーゼ (MTGase) とキトサンの添加効果について調べた 2 種類の bigeye snapperの酸化および未酸化の天然アクトミオシン (NAM) に対する MTGase の効果をまず検討した MTGase の添加はかまぼこゲルの破断強度を増大させた 酸化されたアクトミオシンを含有する魚肉のゲル家性能が低下し 結果として MTGase による坐りに変性した NAM の存在が不可欠であることを明らかにした さらに barred garfish すり身のゲル形成能に及ぼすキトサンの影響を検討した キトサンを 1% 添加するとゲル強度が増加したが すり身に EDTA を添加するとこの効果は失われた これらの結果より キトサン添加によるゲル強度の向上は内在性 TGase に起因することが示唆された タイで製造されるイカ乾燥品は極めて硬いため 消費量が少ない そこで 乾燥イカ肉をアルカリ処理して 製品のテクスチャー改善を試みた 乾燥イカ肉を 10 倍量の 0.15M 炭酸ナトリウム溶液に 20 時間浸漬した アルカリ処理によりイカ肉の水分含量と灰分量が増え 肉質は柔らかくなった アルカリ処理がイカ肉を構成している繊維状構造を破壊するために 保水性が向上することが分かった もう一つの一連の研究では 加熱加工水産食品の最終到達温度の測定方法を検討した 加熱加工された水産食品の中心部が何度まで加熱されたかを 製品として消費する段階で知ることは 食品の安全性の観点から極めて重要である 方法としては タンパク質凝集法 アクリルアミド電気泳動法 酵素活性法 近赤外吸収スペクトル法である 使用した魚介類は クロカジキ カツオ タイ クルマ 20

21 エビ ホタテ貝柱である 考案した各種測定方法のうち 最も迅速で正確に最終到達温度を測定できたのは近赤外吸収スペクトル法で 最終到達温度が 60~100 の範囲で 極めて短時間に 1.9~ 3.1% の誤差で測定できることを明らかにした 水産加工食品および廃棄物の付加価値利用未利用水産物の利用としてイカ類内臓中の抗酸化成分の探索を行った ヤリイカ肝膵臓から抽出した抗酸化成分 (AUC) を添加したタラ肝油のハイドロパーオキサイドの生成量は コントロールに比較して有意に低く AUC の魚油酸化効果が確認された タイにおける重要な産業であるシルク産業において未利用な蚕さなぎの有効利用法の開発として 蚕さなぎを動物用飼料として有効利用を目指した研究を実施した カイコ蛹には多量の 18:3n-3 が含まれていること および n-6 系脂肪酸の含有量は少ないことが明らかとなった 日本の養蚕農家数は繭価の低迷や後継者不足により年々減少してきている 一方 タイでは養蚕業が重要な産業の一つとなっている 高額で取引される絹糸および生地はカイコの幼虫が蛹から成虫に変体する過程で作られる繭を紡いだものであるが 絹糸を紡いだ後に残る蛹は廃棄物として処理される 本研究は カイコ蛹油を食餌用脂質として利用することで 未利用資源であるカイコ蛹を有効に利用することを目的とした 飼料および品種の違いがカイコ蛹の体脂肪酸組成におよぼす影響を検討した 国産カイコ ( 錦秋 1 号 鐘和 1 号 ) の成長に伴う体脂肪酸組成の変化と人工飼料で飼育した国産カイコ蛹と桑の葉で飼育したタイ産カイコ蛹 (Bombyx mori L. race TKYM TKWM) の体脂肪酸組成を比較した さらに 中国産カイコ蛹とブラジル産カイコ蛹脂肪酸組成を比較した 全脂質をメチルエステル化し ガスクロマトグラフィー (GLC) で脂肪酸組成を分析した 次にカイコ蛹油のエマルションとバルク状態における酸化安定性を評価するために ハイドロパーオキサイド (HPO) および酸素吸収量を測定した さらに 食餌用脂質としての有効性を評価するために Wister 系ラットに対する給餌試験を行った 脂質含量 7% の AIN93G 標準飼料に準じて飼料を調製した ラットにコントロール餌 ( 大豆油 ) を与え 10 日間予備飼育した 引き続き 対照群 タラ肝油給餌群およびカイコ蛹油給餌群の 3 群に分けて約 35 日間飼育した 飼育試験では 摂餌量 体重増加量 肝臓重量 肝臓および血球脂肪酸組成 血漿の生化学的検査 (ALT,AST,GPT,GGT, 総コレステロール, トリグリセリド, 総たんぱく質, 尿中窒素量, グルコース,ALP,Alb) を行った ネンブタール麻酔下にて開腹し 心臓穿刺による全血採取を行った 肝臓の摘出に際しては 予め PBS による灌流法を適用した カイコの体脂肪酸組成は食餌性脂質を反映することが明らかになった すなわち n-3 系脂肪酸である α-リノレン酸 (18:3n-3) を多く含む桑の葉を飼料として飼育したカイコには 体脂肪酸に 18:3n-3 の含有量が高いことを確認した また カイコ蛹油はエマルションよりもバルク状態において酸化安定性が優れていた ラットの飼育試験の結果は次の通りである 肝臓および血球の脂肪酸組成は 対照群と比較してカイコ蛹油給餌群およびタラ肝油給餌群のリノール酸とアラキドン酸が有意に低値を示した さらにカイコ蛹油給餌群の体重増加量は対照群と比較して有意に低値を示した また 肝臓中の総脂質含量はカイコ蛹油給餌群 タラ肝油給餌群が有意に低値を示した 生化学的検査では グルコース値が対照群よりも有意に低値を示した 以上の結果より カイコ蛹油は n3 系脂肪酸に富んだ機能性食品への応用が期待できる未利用資源であることが明らかになった このように ラットの血中および肝臓の中性脂質含量を低下させ 血糖値を低下させる機能を有することを見出している 中性脂質含量低下作用は魚油 ( タラ肝油 ) と同等であり 血糖値低下作用はカイコ蛹油特有であった 21

22 血糖値低下における作用機序の詳細は不明であるが 中性脂質低下作用を併せ持つことから インスリン非依存性 Ⅱ 型糖尿病の改善に有効であるものと期待される 今後の課題として ブドウ糖負荷試験における血糖値上昇抑制効果および高血糖症発現ラットに対する発症予防効果を確認する必要がある フェーズ2 における研究成果 養殖エビ類の分子生物学および環境生物学的研究ゲノム解析には不可欠のクルマエビ類の巨大 DNA 断片ライブラリーについて 平均 135kb のインサートを持つ BAC ライブラリーの構築に成功した さらに 約 10kb のインサートサイズを持つ ファージベクターライブラリーも構築した これらライブラリーのクルマエビゲノムカバー率は約 3.5 倍であった クルマエビ類 cdna マイクロアレイ ver2.0 を作製した これらは 前回のものより遺伝子数が約 2 倍となり 遺伝子発現解析が可能となった 本マイクロアレイを クルマエビに免疫活性化物質を投与した場合ならびにワクチン接種した場合の遺伝子発現プロファイリングを行い 多数の遺伝子発現情報を得ることができた クルマエビ類 cdna マイクロアレイを用い クルマエビあるいはウシエビに抗菌剤を投与した場合 ウイルス感染モデルとなる 2 本鎖 RNA を接種した場合あるいはホワイトスポット病ウイルスを感染させた場合の遺伝子発現プロファイリング解析を行い 多数の遺伝子発現情報を得ることができた 特に これらの刺激により多くの機能未知遺伝子が発現上昇していることが確認された クルマエビの生体防御関連遺伝子の機能解析を行うための RNA 干渉法の手法を確立した 本方法を用いることにより 血液凝固と生体防御関連遺伝子と感染防御との関係を明らかにした また クルマエビに 2 本鎖 RNA を接種すると ウイルス抵抗性が増加することを明らかにした この作用は 抗ウイルス物質の産生によることが示唆された ウシエビの性特異的に発現している遺伝子をクローン化し 構造を明らかにするとともに 遺伝子発現について詳細に解析した 本遺伝子は既知の遺伝子との相同性はみられず 新規の遺伝子である可能性が示唆された ゲノム情報を利用した魚介類の機能解析ヒラメより 新規のケモカイン遺伝子 サイトカインレセプター 新規免疫抑制レセプター 種々 toll 様レセプター インターフェロン制御因子 細胞内情報伝達因子および免疫関連遺伝子転写制御因子等の免疫関連遺伝子をクローン化し 構造および発現臓器について明らかにした さらに ヒラメの抗菌タンパク質 NK-lysin について遺伝子構造 発現調節ならびに抗菌活性について明らかにした ヒラメのcDNA マイクロアレイ ver4.0 を作製した 本マイクロアレイを用いることにより ヒラメの遺伝子発現プロファイリングが従来のものより詳細に解析が可能となった さらに ブリおよびマダイの腎臓および脾臓 EST 解析により得られたデータを基に ブリおよびマダイ cdna マイクロアレイ ver. 1.0 を作製した 本マイクロアレイにはブリの既知遺伝子 ホモログ遺伝子および未知遺伝子が合計 1,007 クローンならびにマダイの既知遺伝子 ホモログ遺伝子および未知遺伝子が合計 1,095 クローンをスポットした 本マイクロアレイを用いることにより ブリおよびマダイの遺伝子発現プロファイリング解析が可能となった メコン川での引き網による稚魚採集を行い 種判別法の確立と稚魚期における遺伝的多様性評価を行うとともに メコン川におけるナマズ類の集団構造と養殖集団の遺伝的特性をマイクロサテライト DNA マーカーとミトコンドリア DNA マーカーを用いて詳細な解析を行った 開発した DNA マーカーによりタイナマズの資源解析を行ったところ Pangasinodon gigas および P. sanitwongsei の遺伝的多 22

23 様性が非常に少ないことが明らかとなり 両魚種は絶滅の危機に瀕していることがわかった 熱帯性アワビ 3 種 Haliotis asinina, Haliotis ovina および Haliotis varia を特定するための RAPD マーカーを開発した ニワトリのリゾチウム遺伝子をゼブラフィッシュに導入することにより 特定の細菌感染症に耐性を示す 耐病性トランスジェニック魚の作出に成功した ヒラメの腫瘍壊死因子遺伝子のプロモーターを用いたトランスジェニックゼブラフィッシュの解析により 本プロモーターが細菌の内毒素の存在に反応し 遺伝子発現を誘導することを明らかにした 魚介類の感染症に関する研究診断技術に関する研究として エビの WSV の LAMP 法による自然界における分布を明らかにするとともに Yellowhead viral disease の LAMP 法を確立した グッピーのミコバクテリウム感染症を診断するために LAMP 法のプライマーを作成した さらに そのプライマーを用いて感染魚から菌の検出を行った その結果 本法は PCR 法と同等の感度を持つことが確認された 日本とタイ国におけるエビ養殖漁業の共通の課題であるホワイトスポット病の迅速診断法と防疫対策に関する研究を行い PCR 法による親エビと野生甲殻類のウイルス検査および塩素による養殖場内甲殻類の駆除などによって本病の防除が可能であることを明らかにした 電解海水によるカキの大腸菌浄化法を確立し 従来の紫外線照射に比べ低コストであり しかも同等の効果が得られることを実証した 増養殖過程に発生する感染症のバイオコントロールとして バクテリオファージを用いた魚類の細菌感染症の防除および弱毒ウイルス ( アクアビルナウイルス ) を用いた魚類ウイルス病の防除に関する基礎的研究ならびにウイルス性神経壊死症のワクチン開発を行った 魚類に対するプロバイオティクスの効果を病理組織学的に検討したところ 炎症が強く早く起きることより 生体防御能が改善されることを明らかにした さらに 養殖魚に対するプロバイオティクスの効果を 分子生物 病理組織学的に検討した Edwardsiella tarda を実験感染させたところ プロバイオティクス投与魚における死亡率の減少が認められ また ワクチン投与により抗体価や補体価の上昇が観察された 以上のことより プロバイティクスは魚病対策として有効であることが判明した 抗ウイルス物質産生細菌の魚類ウイルス病対策への応用を目的に まずヒラメの種苗生産用餌料生物であるワムシの細菌叢を明らかにし ワムシ細菌層の制御法を確立した 次いで 細菌層を制御したワムシをヒラメに給餌することで ヒラメ腸管内の細菌叢を制御することが可能であることを示した 薬物速度論的解析法を用いて タイ産養殖ウシエビにおけるオキソリン酸の理想投与量の推定を行い 同用量で感染実験を行った結果 生残率は治療区で 54% 対照区で 11% であった タイ国産ウシエビにおける経口投与法の開発とその方法を用いたオキシテトラサイクリンの薬物動態について明らかにした モデル実験動物であるメダカを宿主としたベータノダウイルス感染系の構築に成功した 熱帯水域における水産資源の保全と管理に関する研究ラヨン県での定置網技術移転に参加し 追加定置網の設置と操業視察を行うとともに 定置網漁業導入による沿岸域管理の手法について漁業技術と資源生物 ならびに漁業経営面からの総合的な検討を進めた また インドネシア研究者を招聘し タイ 日本及びインドネシアとの技術交流の展開を検討した 東南アジア漁業開発センターが実施しているカニを対象にした魚礁の効果判定と地域振興に関す 23

24 る共同研究を実施した 漁業生物に関しては アンダマン海水産研究所研究者に対して 魚類の耳石による年齢形質の解析について実験手法の指導を行い 特にメバチマグロについての耳石処理による研究を行った 漁業技術についてはトロール混獲防除技術については実際の操業データと水槽実験の結果を照合し 魚種 魚体選択の有効な手法の確立 並びに効果判定の問題を取り上げ 東南アジア漁業開発センター研究者との研究取りまとめに向けた議論と今後の展開について協議を進めた 集魚灯漁業に関する共同研究を実施し 有効な漁獲法であることが明らかとなった 平成 15 年にラヨン地区で開始された定置網漁業導入による沿岸域管理の手法について漁業技術と資源生物 並びに漁業経営面からの総合的な検討を開始し 東南アジア漁業開発センター研究者と定置網敷設に関する技術的な問題を検討した 海洋食糧資源の有効利用に関する研究水揚げ量の 50% 以上は 消費者の食卓にのぼらず フィッシュミールをはじめとした低付加価値製品となっている現状を踏まえ 水産加工場から廃棄される部分の有効利用 高付加価値化を続けている そこで すり身工場などから多量に廃棄される魚類の皮 骨に含まれるコラーゲン ゼラチンにまず注目した これらタンパク質の適正な抽出方法とその利用方法として 生分解性 可食性フィルムの開発を行った また 廃棄される内臓から 各種分野で利用される酵素類の抽出と精製を試みた 特に冷凍すり身製造工場などから多量に廃棄される魚類の皮 骨に含まれるゼラチンに注目した ゼラチンの適正な抽出方法とその利用方法として 生分解性 可食性フィルムの開発を行った さらに ゼラチンゲルの性状を微生物由来トランスグルタミナーゼによって改善する方法を開発した すり身製造で廃棄される魚類の皮と骨の有効利用を目的に これらからのコラーゲン抽出を実施し それらの性状について詳細に検討した 未利用イカ内臓廃棄物の有効利用 未利用蚕さなぎ脂質の有効利用 タイ産海藻の抗酸化性物質の探索などについて明らかにした 冷凍ならびに凍結乾燥した水産物の品質をガラス転移現象の観点から詳細な実験を実施した 特にガラス転移温度に及ぼす糖と水分の影響について解析した 4 種類の糖 ( ソルビトール グルコース スクロース トレハロース ) を含有する冷凍すり身とトレハロースを混合した凍結乾燥すり身をコイ肉から調製し それらのガラス転移特性を示差走査熱量計 (DSC) を用いて検討した 凍結乾燥コイすり身は 糖の種類と濃度によって 2 種類のガラス転移温度域 (-42~-65-21~-41 ) を有することが認められた また トレハロース含有凍結乾燥コイすり身のガラス転移温度に及ぼす水分含量の影響を明らかにした これらの結果から ガラス転移現象から冷凍ならびに凍結乾燥した水産物の品質を向上させる方法が示唆された -10~-90 の温度域で冷凍貯蔵されたマグロ肉のメオトミオグロビン生成 ( メト化 ) 速度を約 6 か月間測定し ガラス転移現象との関連性を検討した これらの結果から マグロ肉のガラス転移は-45 付近で起り それ以下の温度域ではメト化速度が極端に遅くなることを明らかにした すなわち マグロ肉の鮮紅色を冷凍貯蔵中に保持するには -45 以下の温度条件が必要なわけである フルクトースとグリシンを 100 で 12 時間加熱して調製したメイラード反応生成物 (MRP) の各種性状とエビ ( ブラックタイガー ) の黒変防止能について検討した PPO に対する MRP の抗酸化性は フルクトースとグリシン濃度が 30mM で最大となった エビ黒変をもたらす polyphenoloxidase 活性を 本 MRP は銅イオンとキレートすることにより抑制することを明らかにした スケトウダラ卵巣の塩蔵品であるたらこは 日本における水産加工品の代表的な製品の一つである 24

25 たらこは他の魚卵同様 EPA DHA ホスファチジルコリンを多く含むが 貯蔵中の脂質酸化による品質低下が大きな問題となっている そこで 本研究では 脂質の光増感酸化を基礎に冷蔵たらこの脂質酸化機構の解明を行った 魚味噌の開発を行い さらにその揮発性成分を分析した 成分分析に当たり 新しい方法として solid phase micro-extraction(spme) 法を利用した 本成分の分析 解明のために SPME 法の最適条件を設定した タイ産冷凍すり身の品質向上を目的に タイですり身製造に通常利用されている魚類の化学的性質やゲル形成能に及ぼす凍結貯蔵の影響を調べた さらに 魚ミンチ肉の脂質酸化を防止するために 糖類のカラメル化合物を調製し その効果を詳細に検討した ダイス状にカットした食肉 魚肉 ホタテなど貝類の凍結品は凍結条件によって身割れを起こしやすく製品歩留まりが著しく悪い この問題を解決するため 凍結条件に加えて 凍結前処理法として鶏肉ダイスにリン酸塩 トランスグルタミナーゼ処理を施し その効果について検討した その結果 両手法とも効果的に身割れを抑制できることが判った フェーズ3 における研究成果 マリンバイオテクノロジーによる魚介類有用遺伝子の機能解析クルマエビの生体防御関連遺伝子の機能解析を行うための RNA 干渉法を 3 種類の抗微生物タンパク質 ( リゾチウム ペナエイジン クラスチン ) 遺伝子に対して実施し これら遺伝子の発現はクルマエビの生存に重要であることを明らかにした 耐病性エビの選抜技術の開発を目的として クルマエビゲノムに存在している病原ウイルス遺伝子ホモログについて RNA 干渉法により機能阻害を行ったところ 斃死率に顕著な差がなく 単一の遺伝子のみではなく複数の遺伝子がウイルス感染に関与していることが示唆された ウイルスのホモログ遺伝子をノックダウンしたところ 斃死率が低くなることがわかり ウイルス側の遺伝子は感染あるいは増殖に重要な因子であることが明らかとなった クルマエビのウイルス感染症を防除することを目的として実施した ウイルスの感染防御抗原遺伝子から組換えタンパク質を作製し クルマエビ類に餌と共に投与したところ 斃死率を抑制することができ 感染防御能を確認することができた イセエビの生体防御関連因子の構造解析として 生体防御に関連すると思われる 4 種類 (beta-defensin 4 Hepatopancreas kazal-type proteinase inhibitor Hemocyte kazal-type proteinase inhibitor および C-type lectin の因子の全長 cdna 構造を明らかにした さらに defensin は 2 つのアイソフォームがみつかり これらは脊椎動物タイプのものであった この脊椎動物タイプが甲殻類にも存在することを世界で始めてみつけた しかし これら defensin の発現は細菌感染との関係は認められず 個体差の大きいことが明らかとなった また イセエビよりクローン化した Crustin は 4 タイプみられ これらは既知のロブスター Crustin よりクルマエビ類の Crustin タイプに類似していた さらに これら Crustin はタイプによって発現様式が異なることが明らかとなった 海産魚類については DNA ワクチンの研究を行った 特に細胞内寄生細菌であるミコバクテリアおよびノカルディアについてワクチン候補遺伝子の単離に成功し ワクチン試験でも有効な成果を得た フェーズ2 までに研究に用いた魚介類 ( ヒラメ マダイ ブリ フグ クルマエビ類 ) に加え タイでも多く漁獲され重要な水産対象種であるマグロの各種臓器で発現している遺伝子の配列情報解析を行った その配列情報を基に作製したオリゴ DNA からマイクロアレイを作製し 大規模遺伝子発現プロファ 25

26 イリングを実施する手法を確立した さらに このアレイを用いて魚介類の健康診断マーカーとなる分子を特定する研究を実施し いくつかの候補遺伝子の単離に成功した また 両国で重要な水産対象種であるアワビおよびエビ類の育種に重要となる性決定関連因子や その他の重要な生理関連因子ならびに肉質に重要なミオシン等の筋肉タンパク質についても分子生物学的アプローチにより解析し 興味深い成果が得られた タイにおいて採集 ( 漁獲 ) 禁止となっているメコンオオナマズを食糧資源として維持するために 人工繁殖集団を育成すると共に完全養殖用の系統を育成するための遺伝学的な解析を行って来た 自然集団における遺伝的多様性評価は長期間におけるモニタリングが必要であり メコン川流域の開発計画が進行している現在 モニタリングの継続は不可欠であった そこで これまでの研究で開発して来た多様性を保全するための放流用種苗の選択交配法の確認 メコン大ナマズの遺伝的パラメーターの確認のための解析を中心として実施し 成果を得た 持続的生産を目指した養殖技術開発に関する研究魚介類養殖に被害をもたらすウイルス病を撲滅する目的で 免疫賦活剤やワクチンの開発を共同で行って来ており 感染防御に有効な免疫賦活剤やワクチンの候補を開発することに成功した タイ国北部地域のナマズ 南東地域のカニの卵や幼生におけるミズカビ病の防除法を確立するために疫学的な調査と病原体の収集を行った これらと同時に 安全な養殖エビを生産するための養殖環境のモニタリングおよび汚染実態の調査および養殖餌料にプロバイオティクスとして添加する有用微生物の検索を行い いくつかのプロバイオティクス候補微生物を同定した 養殖場で発生問題となる魚介類病源微生物感染症の迅速診断法を遺伝子工学により開発し 両国の研究現場に普及させた また 抗ウイルス作用を示す海洋バクテリアによるベータノダウイルス感染症の制御を目的として バンコク近郊の海水および海洋土壌から分離したおよそ 240 株の海洋細菌について抗ウイルス作用のスクリーニングを行ったが 高い抗ウイルス作用を示す株は得られなかった 合計 9 種類のポリフェノールを供試し ウイルス性神経壊死症ウイルス 伝染性膵臓壊死症ウイルス ウイルス性出血性敗血症ウイルスあるいはマダイイリドウイルスに対し不活化作用を示すものをスクリーニングした その結果 柿渋 ワットルタンニン カテキン カフェノール等 有効なポリフェノールが数種同定された これらのポリフェノールの毒性評価を数種の海産魚および淡水魚を用いて行った結果 毒性の強弱は被検魚種間で大きな差はなく むしろポリフェノールの種類に依存した また ワットルタンニンは比較的毒性が高いことが判明した 2008 年に世界的に大きな社会的問題を引き起こしたメラミンが養魚飼料からも検出されたことを受けて メラミンの魚類に及ぼす影響を調べた結果 メラミンとシアヌル酸を高濃度 ( ともに 100,000 ppm) で飼料に添加した場合 魚類の腎臓にもメラミンシアヌレートの結晶が生成すること その他の臓器には著名な病変を示さないことを明らかにした エビやウナギで残留が問題になったフラゾリドン代謝物 AOZ のエライザ法による測定法について 抽出法の改変を行うとともに データのバリデーションを行い エライザ法による AOZ のモニタリングを可能にした また ウナギおよびティラピアにおける AOZ の体内動態と薬物代謝関連酵素遺伝子の発現との関連性を明らかにした エビ類ウイルス病の高感度 迅速定量法の確立のため リアルタイム LAMP 法を共同して開発した さらに 日本で発生が認められていないエビ類の疾病の病原ウイルスの調査を行い 防疫の必要性についての知見を得た また クルマエビのサイトカイン関連遺伝子の全鎖長の遺伝子をクローニングできた 26

27 熱帯水域における資源の保全と管理に関する研究現在日本が進めている資源管理型漁業 そして資源回復計画の推進 並びに FAO が 1995 年より提唱している 責任ある漁業 の地域化を導入し 定着させるために 資源調査を基礎に置いた持続的且つ高度な資源利用に向けて 日本との共同研究を通して人材の養成 調査 研究方法の確立 さらには持続的資源利用のための漁獲技術開発を行って来た そして タイ国の一部地域では沿岸域資源管理の手法確立のために定置網漁業導入による小規模漁業者の共同操業体制の確立と人材の養成も進み 成果を上げつつある 集魚灯漁法 カニ籠漁法についてはカセサート大学並びにタイ国水産研究所と共同して漁業インパクトの低減に向けた実証的研究を展開した 漁業対象重要種となる魚類 甲殻類 頭足類の成長や再生産に関する生物学的研究 並びに持続的開発を可能とする漁獲技術に関する研究を実施し タイ国が日本へ輸出している魚介類の一部については資源量解析手法等の確立がされつつあり 引き続き共同研究及び新技術の指導を行った 生物多様性についてタイ国内での研究の現状を把握し 大学生に必要となる教育内容を整理した 今後は両国において 有効に利用されることが期待される 海洋食糧資源および生理活性物質の有効利用に関する研究魚肉タンパク質を利用した可食性フィルムの調製と性状改善に関する共同研究を行い 水産物より抽出した物質を用いることにより種々の可食性フィルムの作製に成功した 一部の可食性フィルムは極めて優秀な抗酸化能を有することから 脂質を多く含む各種食品の包装材として利用できる可能性を示唆した 2007 年度までの研究で スケトウダラ冷凍すり身を利用して開発された可食性フィルムの性状や利用方法に関して検討が行われた 本フィルムの酸素透過性及び抗酸化能を測定し 脂質酸化の防止に役立つ可能性を明らかにした さらに ツナ缶詰製造時などに大量に廃棄される魚類皮を有効利用する一つの方策として 本研究ではマグロ皮のゼラチンに注目した ゼラチンの最適抽出方法の確立 抽出されたゼラチンの各種性状 そして可食性フィルムへの応用を検討し 成果が得られつつある 水産加工残滓特に本研究では多量に廃棄されているサメ皮に注目し それから得られるゼラチンを利用した可食性フィルムの性状改善と利用について検討した サメ皮からの最適抽出条件はこれまでの本プロジェクトの成果として確立している そこで得られたゼラチンフィルムの性状を明らかにし 地球に優しい包装材料とするために必要な性状を明らかにした 副次的な研究成果として Giant catfish から得られたゼラチンの特性解明 サメ肉のすり身への応用などが挙げられた エビすり身を作製するための技術開発として エビ類筋肉タンパク質のゲル化に関する研究トランスグルタミナーゼをすり身に添加して坐らせることにより 極めて緻密なゲルを調製できた 魚肉発酵食品に関する研究として タイの伝統的魚肉発酵食品である Som-fug と Mungoong の機能特性及び品質改善方策の検討を実施し その機能性食品としての有効性を明らかにした さらに Mungoong 調製時に flavourzyme を利用し Mungoong の収量 各種生化学的性質に及ぼす影響を明らかにした イカ内臓の有効利用の一形態として 内臓に含まれる消化酵素トリプシンの抽出とその性状について研究を実施した まず トリプシン抽出の最適条件を見出すため 塩とポリエチレングリコールの影響を検討した 抽出されたトリプシンは既存のものと比較してその酵素的 生化学的性質に遜色がないこ 27

28 とを明らかにした 日本や東南アジア地域で広く製造 利用されている魚醤油の貯蔵中における品質変化を脂質酸化の立場を中心に検討し 魚醤油の脂質酸化程度は過酸化物量を測定することが有効であることも明らかにした 魚介類特に魚肉の冷凍貯蔵方法と冷凍品の品質の関係を検討し 品質保持の最適貯蔵条件と冷凍保存メカニズムの解明を行った 冷凍水産物に起こるフリーズバーンと呼ばれる品質低下現象の原因は 冷凍中に水分の蒸発が生じることに伴う魚肉表面の色調の劣化であることを確認し タイのように気温が高く 冷凍技術が改良途上である環境下で起こりやすいことを指摘した 本現象の防止策について ガラス転移温度との関連も含めて 凍結乾燥食品内で起こるメイラード反応の速度と乾燥物のガラス転移温度との関連について詳細な検討を行い 冷凍エビの筋肉内部における氷結晶形態 サイズに及ぼす凍結 貯蔵条件の影響などを解明した 可食部ばかりでなく不可食の石付きの部分にも極めて強い抗酸化性物質が含まれている人工栽培エノキダケから抗酸化性物質を効率よく抽出して 魚肉をはじめとした脂質酸化を受けやすく かつ酸化により品質低下が生じやすい食品の品質劣化防止に応用した 養殖魚の飼料に添加することで 上述の化学成分の酸化的劣化を極めて有効に抑制できることを明らかにした タイ湾などにおける貝類の毒化はドウモイ酸が原因で それを生成しているのが Spondylus 属の珪藻であることをこれまでの研究で明らかにした そこで 本珪藻の発生防止 駆除について検討し さらに各種未利用資源および水産加工品に含有され 利用されていない生理活性物質を抽出 精製 同定して 医療も含めた面で利用できる可能性が出て来た 3-2. 共同研究を通じて発表された研究業績 論文リストは本資料参考資料の後に記載した 本事業による共同研究を含む論文発表数を下記の表に示した タイ研究者との共著は 2 年目以降毎年 10 編以上発表して来ており 最終年度に当たる 2009 年は 25 編の共著論文を発表した 国際的な学術誌に発表した論文のいくつかは 雑誌毎に定期的に発表される注目される論文 25 選に選ばれたものがあった さらに 日本政府奨学金にて東京海洋大学大学院を修了したタイからの留学生が在学中に筆頭著者として日本水産学会の学術誌である Fisheries Science に 2004 年に発表した論文が過去 5 年間に最も引用された論文に与えられる論文賞を受賞した また 世界で初めてエビ類への遺伝子導入法を確立した成果を科学雑誌 J. Experimental Zoology(2005 年 ) に発表した際に 本雑誌の表紙を飾ることができた 発表論文数発表年 発表論文数 タイ研究者との共著論文数

29 セミナーの成果 本事業において開催した 10 回のセミナーではプロシーディングス集 ( 最初の 5 回は ISBN 番号を取得 ) あるいは要旨集を発行し 特にタイ側若手研究者が研究論文を発表することに貢献できた 以下にそれぞれのセミナーにおける成果を示した 平成 13 年度開催セミナータイトル : エビ養殖における環境問題と病気について Sustainable shrimp culture and health management 東南アジアにおけるエビの養殖は もっとも重要な産業の一つである しかし 無秩序に養殖場を開発したために 環境悪化を引き起こしている また 養殖場管理システムも徹底されておらず 病気の発生による経済的な被害も多大なものである また 日本においても クルマエビの疾病はときには経済的に多大な被害をおよぼすことがある これらのことから アジア諸国において重要な産業であるエビ養殖における環境および病気の問題について討議し 有効な対策を考えることは急務である そこで 本セミナーにおいては エビ養殖における諸問題について討議する場を設けることとした 本セミナーには基調講演として 甲殻類の生体防御システムについては この分野の第一人者であるスウェーデンの Söderhäll 教授に エビ養殖における感染症に関する問題については台湾大学の Kou 教授に エビ養殖と環境およびプロバイオティクスについてはフィリピン大学の Corre 教授にしていただいた 一般講演は 15 題で養殖エビに関する感染症と環境問題についての講演があった 講演毎のディスカッションならびに全公演終了後の総合討論では活発な意見交換がなされ エビ養殖における諸問題を明らかにし 有効な解決手段あるいは方針を見つけだせた このことにより 今後 より効率的で環境に優しいエビ養殖に向けた技術の確立に貢献した 平成 14 年度開催セミナータイトル : 養殖における環境と魚病に対する総合的対策 Perspective Approaches for Environmental and Health Management in Aquaculture これまでタイにおける養殖魚介類の疾病に関する研究は 大規模エビ養殖場で発生する感染性疾病に集中していた 一方 小規模養殖を含む養殖全般にわたる疾病の研究や 疾病の発生要因となる水質ストレス 栄養ストレスなど広範囲な研究はほとんどなされていない そのため 各種の感染症により養殖魚生産が停滞し 持続可能な養殖が危うくなっている このシンポジウムでは上記の状況に鑑み 広範囲な魚病対策を模索することを本セミナーの目的とした 本セミナーはタイの Rayong で開催され 参加者総数は約 300 名であった 基調講演として タイ側のコーディネーターである Yont 博士がタイにおけるエビ養殖の歴史と疾病について講演され 次いで 29

30 日本側コーディネーターである青木教授が エビの生体防御関連遺伝子の研究について講演を行った 一般講演では 各研究者が 感染症 環境問題 養殖システムならびに感染症の防除について講演を行った 講演毎のディスカッションならびに全講演終了後の総合討論では活発な議論がなされ 魚介類養殖における諸問題が明らかにされた また これら諸問題を解決する有効な手段あるいは今後の研究の方向性を導きだすことができた 平成 15 年度開催セミナータイトル : 魚介類養殖における生産性と食品安全性 Productivity and food safety in aquaculture タイでの魚介類養殖は輸出産業として大きな発展を遂げ また国内にむけては安価で良質なタンパク質を供給してきた しかし 最近では国際競争が激しく 高い生産性による国際競争力が必要とされるようになった 同時に輸出だけでなく国内消費においても 養殖魚介類の食品としての安全性が問題とされるようになり 従来の魚介類養殖技術や知識ではそれらに対処できなくなっている 魚介類養殖における魚病対策 栄養 環境など多くの分野にわたる包括的対策が必要であり タイと日本の研究者がシンポジウムを通して情報交換を行い これらの問題に共同して取り組み対策を確立することを目的とした セミナーでは 2 名の基調講演に引き続き 6 セッション開催され 25 題の講演が行われた 本セミナーにおいて 両国の魚介類養殖における魚病対策 栄養 環境等の諸問題に対する包括的対策について タイと日本の研究者がシンポジウムを通して情報交換を行い これらの問題に共同して取り組む対策を検討し 共同研究発展に重要な方向性を確立することができた 平成 16 年度開催セミナータイトル : 養殖安全管理と HACCP Management of food safety in aquaculture and HACCP 近年 消費者の食の安心 安全に対する要求は我が国のみならず 世界各国でその要求は高まっている そこで 魚介類を養殖するにあたって健全な水質環境の維持 汚染物質の種類 汚染物質の水界での分布と残留 汚染物質の魚体内での代謝と生体内濃縮 魚介類への影響と毒性試験 魚介類を用いた環境評価 養殖上問題となる汚染 水質基準について討議するとともに 危害分析重要管理点方式 (HACCP) を導入した魚介類の養殖について情報交換を行い これからの水産養殖の発展に貢献できる方法を模索することを目的とした 本セミナーでは 2 人に基調講演をしていただき 一般講演として 28 演題が発表された また JSPS バンコクセンターの吉田センター長より JSPS の活動について紹介があった さらに H16 年度が事業開始 5 年目であることから 我々のこれまでの研究成果の紹介と今後の拠点交流事業の方針について説明が行われた 本セミナーを通して 両国の魚介類養殖における生産物としての食の安心 安全に対する諸問題に対する包括的対策について タイと日本の研究者がシンポジウムを通して情報交換を行い これらの問題に共同して取り組む対策を検討し 食の安心 安全について意識して研究教育を行なう環境の基盤を確立することができた 平成 17 年度開催セミナータイトル : 新世紀における水産食資源動物の生産技術および有効利用に関する研究 -I 30

31 Productivity techniques and effective utilization of aquatic animal resources to the new century-i 21 世紀の水産業は 海洋環境を保全しつつ増養殖業による水産資源の増産 魚類資源の持続的生産および水産資源の高度利用を基本にして発展して行かねばならない 今後も増え続ける人口を養い その生活を維持するために食用魚介類に対する需要は世界的に強まっている 我が国とタイの水産の研究に従事する研究者は 21 世紀の水産業発展に貢献するため 深く連携をとりながら 高度な技術を駆使した 持続的産業として 水産業を発展させねばならない 本拠点事業の研究目標到達を目的として これまでの両国間の共同研究により 魚介類の種苗生産技術および飼育技術の改良 新しい養殖飼料の開発 養殖場の環境浄化 魚介類の病気の防疫体制の新技術開発 水産生物に対する適切な資源量の評価ならびに資源解析結果に基づく漁具 漁法等の漁業技術の改良 開発研究 生態系を維持した管理型漁業に関する研究 先端加工貯蔵技術の開発により 熱帯水圏特有の悪条件にも長期保存が可能な水産食品製造法開発に関する研究を展開して来ており これらの成果について討論することによりさらに研究を発展させることを目的とした 本セミナーでは日本側とタイ側より各 1 人に基調講演をしていただき 一般講演は 4 つのセッション (Genetics and Genomics of aquatic organisms Fish and shellfish diseases Fisheries biology for the resource conservation and management in the tropical area Effective utilization of marine food resources) に分かれて開催した 一般講演の前に 平成 16 年度及び 17 年度に日本へ共同研究で招聘した研究者の研究成果報告会を開催した また JSPS バンコクセンターの吉田センター長から懇親会にて JSPS の活動について紹介があった 本セミナーを通して 両国の魚介類養殖における生産物としての食の安心 安全に対する諸問題に対する包括的対策について タイと日本の研究者がシンポジウムを通して情報交換を行い これらの問題に共同して取り組む対策を検討し 今後のさらなる共同研究発展のための方向性を確立することができた 平成 18 年度開催セミナータイトル : 新世紀における水産食資源動物の生産技術および有効利用に関する研究 -II Innovative Technology for the Sustained Development of Fishery and Aquaculture 本セミナーでは日本側とタイ側より基調講演を各 1 題設定した 一般講演は 4 つのセッション (Genetics and Genomics of aquatic organisms Fish and shellfish diseases Fisheries biology for the resource conservation and management in the tropical area Effective utilization of marine food resources) に分かれて開催した 一般講演の前に 平成 17 年度および 18 年度に日本へ共同研究で招聘した研究者の研究成果報告会を開催した さらに 大学院学生の発表セッションを設け 若手研究者による意見交換等を行った セミナー基調講演では東京海洋大学の矢澤一良教授が 海洋生物由来生理活性物質の機能性食品への利用について の講演を タイ水産庁の Somying Peimsomboon 博士が Fishery resource managements for sustainable development in Thailand の講演を行った また 両国の魚介類養殖における生産物としての食の安心 安全に対する諸問題に対する包括的対策について タイと日本の研究者が本セミナーを通して情報交換を行った 今後 これらの諸問題に共同して取り組むことになった 平成 19 年度開催セミナータイトル : 新世紀における水産食資源動物の生産技術および有効利用に関する研究 -III Innovative Technology for the Sustained Development of Fishery and Aquaculture -III 31

32 本セミナーでは日本側より 1 名とタイ側より 2 名の基調講演を設定した 一般講演は 4 つのセッション (Functional marine biotechnology The study on development of new technology for sustainable aquaculture Fisheries biology for the resource conservation and management in the tropical area Fisheries biology for the resource conservation and management in the tropical area) に分かれて開催した 一般講演の前に各グループリーダーによる研究成果報告会を開催した セミナー基調講演ではカセサート大学副学長 Thanwa Jitsanguan 博士が Moving towards sufficiency economy philosophy as alternative development direction の講演を 東京海洋大学副学長岡本信明教授が Role of cytotoxic T-lymphocyte in protecting fish from viral infections の講演を DSM Nutritional Products 社の Jacques Gabaudan 博士が Consumer survey on shrimp purchasing behavior in Japan の講演を行った Thanwa Jitsanguan 氏の講演は今後の日本とタイにおける科学技術協力等についてであり セミナー出席者の今後の共同研究に有益であった また Jacques Gabaudan 氏の講演は 日本の消費者が海産食品を購入する際の重要点についてのアンケート調査を基に 海産食に関する研究の方向性等について講演されたものであり 特に 本事業のうち 食品関連グループの研究に重要な講演であった また 両国の新世紀における水産食資源動物の生産技術および有効利用に関する研究について タイと日本の研究者が本セミナーを通して情報交換を行った 平成 20 年度開催セミナータイトル : 新世紀における水産食資源動物の生産技術および有効利用に関する研究 -IV Productivity techniques and effective utilization of aquatic animal resources to the new century-iv 本セミナーでは各研究グループから 3 4 名の研究者がこれまでの共同研究 ( グループ 1 から 4 題 グループ 2 から 4 題 グループ 3 から 2 題 グループ 4 から 3 題 ) について報告するとともに 今後の共同研究について紹介を行った セミナーを通して タイと日本の研究者が情報交換を行い これらの問題に共同して取り組む対策を検討し 今後の共同研究をさらに発展させるための方向性を確立することができた 東京海洋大学長および副学長ならびにカセサート大学水産学部長とグループリーダーが会議を持ち 今後の共同研究や研究者交流について検討し 平成 21 年度で終了する本拠点事業の後も 両拠点大学を中心とした研究並びに研究者 学生交流を続ける努力をすることが確認された さらにグループ単位での共同研究費の申請等も積極的に行い 本事業の成果を埋もれさせることなく何らかの形で有効利用できるようにすることも確認された 平成 21 年度開催セミナータイトル : 新世紀における水産食資源動物の生産技術および有効利用に関する研究 -V Productivity techniques and effective utilization of aquatic animal resources to the new century-v これまでの両国間の共同研究により 分子生物学的アプローチによる海洋生物の特徴的な生理 免疫機能やゲノム構造の解明 魚介類の種苗生産技術および飼育技術の改良 新しい養殖飼料の開発 養殖場の環境浄化 魚介類の感染症の診断 防疫体制の新技術開発 水産生物に対する適切な資源量の評価ならびに資源解析結果に基づく漁具 漁法等の漁業技術の改良 開発研究 生態系を維持した管理型漁業に関する研究 先端加工貯蔵技術の開発により熱帯水圏特有の悪条件にも長期保存が可能な水産食品製造法開発に関する研究 水産食品の安全流通管理システム研究について優れた成果が輩出されて来ており 本セミナーを通して情報交換や意見交換をするこ 32

33 とができ 今後 日本とタイの水産学における研究が更に発展することが期待された また 本セミナーを公開で実施したことにより 学生や企業関連の者にも多くの情報を提供することができ 社会貢献にも繋がったものと考えている 東京海洋大学長および事務局長ならびにカセサート大学長および水産学部長とグループリーダーが会談し 今後の共同研究や研究者交流について話し合うことができた さらに JSPS バンコクセンター長の池島先生とも会談し 今後のタイ国と日本における水産学発展のための学術的な方向性等について意見交換することができた 最終セミナータイトル : 新世紀における水産食資源動物の生産技術および有効利用に関する研究 -VI Productivity techniques and effective utilization of aquatic animal resources to the new century-vi 開会式には タイ国大使館から全権大使および公使参事官 ( 農業担当 ) が また 日本学術振興会から国際事業部長が出席され 大使からはご挨拶を 国際事業部長からはご挨拶ならびに日本学術振興会の国際交流事業についてご紹介をいただいた さらに 公使参事官には研究発表にもご参加いただいた 本事業の最後のセミナーにあたるため 日本で開催し 我が国の水産学に携わる研究者間でタイ国との水産学に関する共同研究の成果を共有する場を設けることも目的としたが 多数の参加者にその目的は十分果たせたと考える また 民間の研究者も参加していたので 本事業の成果を 広く両国間の水産学発展に寄与させることができたと思われる さらに 韓国と水産学分野で拠点大学交流事業を実施している北海道大学水産学部のコーディネーターおよびフィリピンと水産学分野でアジア研究教育拠点事業を実施している鹿児島大学水産学部のコーディネーターから当該事業の紹介ならびに共同研究の状況について情報提供が行われ タイだけでなく今後の日本を中心としたアジアにおける水産学研究についても意見交換することができ アジアにおける水産学およびネットワーク構築の発展にも寄与したと考える 3-4. 若手研究者の交流に関する成果 東京海洋大学におけるタイからの留学生の在籍 入学状況と博士学位の取得状況を下記の表に示した 事業開始年である 2000 年から現在 2010 年までに 38 名の学生がタイから本学に留学して来ており これらの留学生のうち 25 名が博士の学位を取得し 帰国後は大学 ( カセサート大学 チュラロンコン大学 プリンスオブソンクラ大学等 ) 水産庁研究所あるいは民間の研究機関において教育 研究に従事している タイ国籍留学生 ( 単位 : 人 ) H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 計 東京水産大学 東京海洋大学 計 タイ国籍博士課程入学者数と学位取得者数等 ( 単位 : 人 ) 設置入学年修了年度総計 33

34 度 在学中 東京水産大学 東京海洋大学 総計 本拠点方式による学術交流により共同研究が発展した一つの理由に 本事業開始当初に両国の大学院生を長期間交流させたことが挙げられる タイ国からはタイ国政府の大学院生長期派遣プログラムにより数名の大学院生が半年から 10 か月間 東京海洋大学に滞在し 共同研究を行った この間 共同研究の研究のみではなく 新しい知見や 技術を積極的に修得する努力を行った カセサート大学の大学院生 1 名を 筑波大学 -カセサート大学間交流協定を利用して 日本国際教育協会 AIEJ の支援の下に 6 ヶ月間筑波大学に招聘し 大学院生の教育を実施した また 本事業とは別の事業予算ではあるが 東京海洋大学大学院学生 5 名 ( 一回の派遣では 1~2 名 ) を 1~3 か月の期間で 5 回派遣し 共同研究を実施した 本派遣により 世界で始めてエビ類への遺伝子導入法を確立することができ 研究成果については国際的な科学雑誌 J. Experimental Zoology に発表するとともに 掲載誌の表紙を飾ることができた タイ国研究者が研究室に 1~2 か月滞在して研究を行っている間 博士 修士課程の学生ばかりでなく 4 年次生も積極的に話し合い また色々な研究方法の指導を受けた 特に 両者の積極的かつ効率的な研究に対する姿勢ややり方に 学生達は大きな影響を受け 研究室の活性化に結びついた 漁業技術分野では, 若手研究者の受入れの際に本学練習船での調査航海に参加する機会を作り タイ国での調査船による調査手法の確立と人材育成に貢献してきた また 東南アジア漁業開発センターの担当者との緊密な交流連携を通じて 本学の大学院生をインターンシップとして派遣する別プログラムを立ち上げ これまでに 3 名の短期派遣を実施した 日本に受け入れた研究者との交流を含め 若手研究者の相互理解を深め 次の時代への掛け橋を構築することに役立って来ている さらに 東南アジア漁業開発センターで開催された定置網漁業技術普及に関するセミナーに若手研究者 1 名を講師として派遣し 漁場環境調査法についての講義 ならびに乗船調査による実際の測定と解析方法についての指導を通じて国際研究活動の経験をした 2006 年 10 月 30 日 ~11 月 3 日に米国ボストン市で開催された 21 世紀における漁業技術 - 漁業と生態系保全の統合 に関する国際シンポジウムにおいて 東京海洋大学博士後期課程の 2 年次生に在学中のタイからの留学生 Anukorn Boutson が Size and species selectivity by improving collapsible trap design for blue swimming crab in Thailand: タイ国におけるガザミ籠の設計改良による選択性 の演題でポスター発表を行い Best Student Posterを受賞した ICES( 国際海洋開発協議会 ) と FAO( 国際食糧農業機構 ) の共同主催のこのシンポジウムは 漁業技術系の国際学会としても 34

35 っともレベルが高く 今回の受賞は JSPS 拠点大学によるタイ側の共同研究者にも大きな反響を呼んでいる 本事業で構築した協力体制のもと 東京海洋大学が平成 20 年度より始めている大学院改革プログラムでの海外インターンシップ制度を利用し 日本人大学院生がカセサート大学およびタイの食品関連工場にて食品の流通と食品安全管理システムについて学ぶことができた このように 本拠点事業に参加している研究者個々の努力により 本拠点事業に有意義な波及効果を与えられたと考える 3-5. 交流を通じての相手国からの貢献 エビ類を使用した基礎的な研究分野において 日本ではクルマエビの受精卵を使用する研究は困難であるが タイにおいては近縁種のウシエビの卵が一年を通して使用可能であることから 研究を発展させることができた さらに タイでは通年 同じサイズのウシエビが手に入ることから エビを用いた生物学的研究から分子生物学的研究に至るまで 日本でのみ研究している場合より多いに発展させることができた 本交流を通じてもたらされた疾病発生の情報 魚病対策に使われる抗生物質など化学療法剤の種類や量に関するデータなど 日本側にとっては大変貴重である 新しい感染性疾病は 観賞魚や養殖種苗の輸入を通して日本国内に広がり深刻な被害を与えることも考えられ 事実 日本国内で深刻な被害を与えているコイヘルペスウィルス症は東南アジアまたは中国から日本国内へ持ち込まれたと考えられている そのためタイ国での新しい疾病の発生を十分把握しておくことは魚類防疫上の重点課題の一つと言える また最近 各国からの輸入食品から許容量を越える農薬や抗生物質が検出され 消費者に不安を与えている 大量のエビがタイから日本へ輸入されているが 日本国内での食品 公衆衛生上の問題として エビ養殖に使われる化学療法剤の種類や量 使用状況を把握する必要がある この様にタイ国側からの貢献は非常に大きい 研究材料の入手として タイ湾あるいはタイ河川でしか得られない魚種を凍結した状態でかなりの量を入手できたことである これら試料がなければ 共同研究の一部は未成熟の状態で終了したと思われる 日本からの派遣中の調査でカバーできなかった地域での調査作業を継続し 漁業技術部門では漁具漁法の詳細資料の獲得 そして資源生物部門ではサンプリングの追加を行う体制で研究を実施することができた また トロールの混獲防除技術に関しては タイで開催される東南アジア各国参加の会議にアドバイザーとして参加する機会が得られ 幅広い情報収集が行えるとともに 研究面での広域展開の契機を与えられた 集魚灯漁業についても アジア全域で広く行われているものの 各国の光源出力の技術レベルには大きな較差があり 漁船間光力競争による過剰設備投資と過剰漁獲努力の問題を早急に研究者に伝え 早い段階での対応が必要となっている アジア全域対応の一環として タイでの情報提供と方策検討について積極的な協力を得 成果を得ることができた 国産カイコ ( 錦秋 1 号 鐘和 1 号 ) の成長に伴う体脂肪酸組成の変化と人工飼料で飼育した国産カイコ蛹と桑の葉で飼育したタイ産カイコ蛹の体脂肪酸組成と比較することができた 相手国共同研究者はタイ産カイコ蛹の飼育を分担し 蛹を提供した 35

36 3-6. 交流を通じての相手国への貢献 タイ国より日本政府奨学金 ( 日本学術振興会推薦 大使館推薦ならび大学推薦 ) による大学院博士課程留学生を引き受け 博士学位取得者はタイへ帰国後はそれぞれ教職の任につき 日本での経験を活かしタイ国若手人材育成に励んでいる タイ国からの訪問研究者には 生化学的研究に必須の遺伝子工学手法等の技術を紹介すると共に 実際に実験を行い 技術修得のための指導を行った さらに 日本からの派遣研究者は タイ国の研究期間において講習会を開催し 新しい技術等の指導を行った このことにより タイ国の魚介類分子生物学分野における研究レベルは急速に高まっており 最近ではタイ国研究者が中心となって行った研究成果を 本分野における国際的な科学雑誌に研究成果の発表を行うに至っている タイ国での新しい感染性疾病は 観賞魚や養殖種苗の輸入を通して日本国内に広がり深刻な被害を与えることも考えられる そのため 新しい診断技術 例えば分子生物学的手法を用いた in situ hybridization 法や LAMP 法の紹介 また従来の技術でもタイ側研究者の知識不足から普及していない技術 例えば病理組織学的診断法などの普及を図った これらにより 正確で迅速な診断が可能となり タイ国内での魚病発生状況の把握を容易にした メコン川に棲息するナマズ類の資源調査を遺伝子レベルで行える手法を開発したことから 今後は これまで以上に正確に資源調査を実施できることになった タイの水産業は重要な輸出産業であり 水産物の多くは日本へ輸出されている 日本の水産物輸入相手国の第 4 位がタイである エビ エビ調整品 イカ イカ調整品 カマボコ原料 カツオ マグロの缶詰等は タイの輸出先国の1あるいは2 位が日本で 日本の輸入先の1あるいは2 位が日本である 本事業でタイ研究者と食品加工技術の改善 新食品の開発ならびに水産加工食品 養殖エビおよび漁獲物の HACCP の共同研究を行い タイの水産業の発展への貢献と我が国への水産食品の安定的な供給と安全な食品を供給している タイ国養殖業における食品安全性確保に対する HACCP 概念を広めたことは 社会的にも評価できるものと考えている 魚病対策に使われる抗生物質を始めとする化学療法剤は食品 公衆衛生上 問題となることが多い そこで抗生物質などを使わず ワクチンなどを中心とした総合防疫対策が必要である その具体例としてワクチン 免疫賦活剤 プロバイオティクス 病原体のキャリアの駆除 安全な消毒薬など 食品衛生上問題のない様々な魚病対策法の普及に貢献した トロール混獲防除に関する研究では 漁獲物の大きさを選択する機能の効果判定に関して最新の解析手法を指導し 国際レベルでの論文完成に寄与してきた また 集魚灯漁業についてはこれまで技術研究の対象と成っていなかったものを 日本での研究現状として光源出力の適正化を通じた資源管理の可能性を伝え 水中照度計算による光源出力の比較について技術指導を行い 新しい研究分野としての確立を進めている 資源生物の分野ではこれまで十分に取り上げられていなかった水産重要種の成長 再生産 分布 回遊といった問題の重要性を伝え 基礎研究の人材養成に貢献してきた 例えば 魚類の耳石を用いた日成長解析について受入れ中に耳石処理と解析の技術指導を行い 帰国後にタイの重要魚種についての共同研究が進められるように設定した ラヨン郡において実施している日本の定置網技術導入の事業についてすでに 2つの定置網の操業が定着し 地元漁業者の収入向上に機能するとともに 沿岸域漁場を地元漁業者が自分の庭として管理し 資源を持続的に利用するためのツールとして評価されてきた すでにタイ国内の各地より新たな技術移転に向けた申し出が始まっており また東南アジア漁業開発センターで開催された域内普 36

37 及セミナーを通じてマレーシアからの申し出もあり タイ以外の途上国の漁村振興と沿岸域管理のための技術としても日本からの支援体制が期待されるに至っている 本事業により始まった本取り組みを導入し発展させたインドネシアでの活動については外務省主催のグローバル教育コンクールに 日本の定置網技術を学ぶ東南アジアの若者たち として応募し 2009 年度素材部門優秀賞を受賞した ( また 平成 22 年度の本コンクール応募用紙に写真が使われた 3-7. 成果の社会への還元 日本からの派遣者のうち魚病関係の研究者等がタイの魚介類養殖場を訪問し 防疫対策上のアドバイスを与えているほか 養殖現場へ還元可能な本交流事業における学術面での成果が着実に得られている また 食品安全 リスク管理を研究テーマとするタイからの留学生の受け入れが増加しつつあり 最新の研究手法や基礎知識を持つ人材の育成を通して 水産物輸出が主要な産業となっているタイにおいて多大な社会貢献を果たしていると考えている ラヨン郡において日本の定置網技術導入の事業が東南アジア漁業開発センターの沿岸域管理プロジェクトとして実施されており 立上げの段階から東京海洋大学教員がアドバイザーとして参画し 地域漁村振興と沿岸資源管理手法として成果をあげつつある 拠点交流事業として 漁業技術 資源生物 漁業経済の専門分野からの支援体制を構築しており 本事業の成果普及を行うことができた タイバンコクで開催した本事業セミナーにおいてバンコクを中心とした食品会社の研究者や従業員と交流し 彼らの抱えている問題の解決に向けた相談に乗った さらに シンポジウム後に魚醤油 ( ナンプラー ) 工場を見学し 工場長や製品開発 品質管理の担当者と意見交換を行い 製造工程の問題について日本の魚醤油との違いなどを踏まえた指導を実施した 本事業によるものではないが 若手研究者に関するところで述べたとおり 本事業にて構築されて来た人的な繋がりにより 2010 年 1 月からカセサート大学と東京海洋大学が中心となり タイ輸出入協会 在タイ日本食品関連企業および JETRO の協力により タイの企業関係者を対象とした食品加工における安心安全に関する教育コースを開始することができた このような教育コースを始めることができたのは 本拠点事業による 10 年間の交流による互いの信頼関係の構築があったからこそであると考える 3-8. 予期しなかった成果 1. 日本側のコーディネートを通じて JSPS 拠点事業 ( インドネシア拠点 ) で実施した水産食品 漁業生物 漁業技術に関する国際セミナーにタイからの研究者招聘を行って研究成果紹介を行い 二国間交流の枠を越えた研究交流の契機を作ることができた 2. 拠点交流のネットワークを通じて タイ側協力大学 研究機関 在東京タイ大使館からの表敬訪問の機会が多くなり 本学の国際連携の活性化に大いに寄与してきた その際に 本学へ留学中のタイ側若手研究者との懇談の席を設け 本学の研究 教育の先進的な内容を十分に伝えることができ 今後の共同研究の展開にも役立たせている 3. タイ拠点交流事業を含めた本学の東南アジアでの交流連携の発展型として 慶応義塾大学が主体として運営されている SOI-Asia において 2002 年よりアジア諸国へのインターネットによる講義配信 37

38 の機会が得られ 毎年 1 回のペースで漁業 魚病 食品 養殖 海事工学とテーマを変えて Advanced Topics for Fisheries and Marine Sciences のコースを担当してきた 現在も引き続き インターネットによるリアルタイムでの講義の海外発信とアーカイブ化を行っており 東京海洋大学では大学院授業 海洋科学技術特別講義 I~IV として実施されて 単位の認定も行われている 4. 水産学関連の拠点大学交流として 本学が実施しているタイとインドネシアとの間での連携はもちろんであるが 北海道大学の韓国との拠点 そして鹿児島大学のフィリピンとの拠点とも連絡協議会等を通じて連携をはかって来た たとえば 日本水産学会や国際漁業経済学会等が日本国内で開催する国際学会の折に 共同研究としての拠点招聘の時期を調整し 各国研究者が相互に情報交換の機会を設けてきた 二国間の共同研究の枠を越えたアジア地域での水産学研究者のネットワーク構築の基礎となった 3-9. 課題 反省点 本事業の共同研究は順調に進んだと考えている タイの参加機関と 本交流事業に参加している日本側研究者は それぞれ非常に良好な関係にあり 大きな問題点は見当たらない 本事業終了後も両国の若手研究者の参加を得て更なる交流の発展が期待される その際に問題となるのは研究費の支弁であり 様々な外部資金獲得の努力が必要である また 今後 本事業の成果を如何に社会に貢献できる形にするかについて より一層考慮していく必要があるとも考える 交流事業終了後の展望 本事業のうち 養殖関係の分野を中心とし JSPS アジア研究教育拠点事業に 安心 安全な養殖魚介類の生産技術とリスク管理法開発に関する研究 の課題名で採択されており 今後は下記に示した交流目標のもと 共同研究と若手研究者の育てるための教育を推進して行く 安心 安全な養殖魚介類の生産技術とリスク管理法開発に関する研究 食品の安全性確保に対する要求は 世界的に大きな流れとなっており 日本 欧米をはじめとする食品輸入国は 様々な食品の基準を定め それに合致することのみならず 生産から流通の各段階で適切な管理を行うことを要求するようになってきている 養殖魚介類の生産についても例外ではなく 日本は 食糧の多くを海外に依存している一方で 国産の安全性や世界的な魚食ブームを背景に 欧米への養殖生産物の輸出増大を図ろうとしている 一方 タイを含む東南アジア各国は 養殖エビの主要な生産国であり 日本のみならず EU アメリカなどが主要な生産物の輸出相手国となっており 日本とタイは 対 EU 対米輸出という点では同じ立場で養殖生産物のリスク管理に取り組む必要がある また 日本はタイから多くの水産物を輸入しており 2007 年度の統計では タイは水産物輸入相手で中国 米国 ロシア チリについで第 5 位に位置している さらに 海産物およびエビ類の輸入相手としてはアセアン 10 カ国で それぞれ 21% と 58% であり ともに第 1 位であり 東南アジア諸国が日本の水産物供給先として重要なことは明らかである タイは 水産学の分野では周辺東南アジア各国に対して指導的立場にある このことから 水産学分野において タイとの密接な協力関係を維持していくことは 東南アジア全体の水産学 水産業の向上に寄与できるものと考えられる このような背景のもと 本プロジェクトでは 安心 安全な養殖魚介類の生産技術 の 38

39 構築を目指し バイオテクノロジーを利用した水産食資源の増産のために技術開発ならびに水産食品のリスク管理技術の開発とリスク防除技術の確立を行う 我々が目指している研究協力体制は 日本 : 東京海洋大学 タイ : カセサート大学を拠点機関とし 本プロジェクトに関する研究 教育に関連する大学や研究機関と協力し アジアの手本となり アジアの水産食資源開発や生産 流通管理についてリーダーシップをとることである これまでの拠点大学交流事業においても 単なる研究者交流ではなく 互いに協力した共同研究を展開し 国際的な学術雑誌にも共同研究の成果を発表してきており これらの研究成果は 関連学術分野に多大なる影響を及ぼし またその発展に貢献してきている このようなことからも 本プロジェクトによる共同研究や交流により得られる成果も関連の研究分野に対して影響を与え また共同研究は 日本とタイの間のみならず 更なる国際的な共同研究へと発展することが期待される 構築した体制を持続させるためには交流が必要であることから 互いの研究機関では 引き続き交流に必要な予算獲得に努力するとともに それぞれの機関独自の特別配分が承認されるように参加研究者は研究成果の波及に努める 漁業 資源 生態系に関する研究分野においては ラヨンでの定置網設置に関する技術移転が着目され 総合地球環境学研究所が新事業を今年度より開始しており 当該新事業には本事業に参加していた研究者も参画している ( 事業ホームページ : 39

40 4. 参考資料 本事業開始の平成 12 年度より3 年間は 本事業の理解を深めるために ISBN 番号を取得し 英文でのレポート集を発刊した 平成 12 年度 :ISBN: 平成 13 年度 :ISBN: 平成 14 年度 :ISBN: